旅先でのファッションは、その土地の空気にいかに溶け込むかが鍵。特に、急なスコール(土砂降り)が日常のベトナムでは、雨具さえもファッションの一部だ。
──と、書いてみたが、正直に言おう。
ベトナムでレインコートは「ファッション」ではない。生活インフラだ。
この国ではバイクが主要な移動手段。学生も、会社員も、GrabやShopeeFoodのデリバリードライバーも、誰もがバイクのシート下にレインコートを常備している。
雨が降り始めれば、道路脇にバイクを停めて素早く着用。止んだら即座に脱いで、また走り出す。傘?バイクに乗りながら差せるわけがない。
つまり、あなたがベトナムの街角で見かけるレインコート姿の人々は、ファッショニスタではなく、ただの通勤中の人だ。
……だが。
それでも、あえてファッション誌風にレビューさせてほしい。なぜなら、このアイテムには語るべきストーリーがあるからだ。
チープシックの極致。ベトナム・ストリート発の「It」レインコート

ストリートでハッと目を引くのは、現地の人々がこぞって身に纏う、チープシックなレインコート。これは単なる雨具ではない。その日のムードを決定づける、エッセンシャルなファッションピースだ──と言いたいところだが、本人たちにそう伝えたら「は? 雨だから着てるだけだけど」と返されるだろう。
その「何も考えてない感じ」こそが、最高にクールなのだ。
センシュアルな「透け感」を操る
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最大の特徴は、そのセンシュアルな「半透明ビニール」の素材感。
あえてインナーを透けさせることで、レイヤリングの妙を存分に楽しめる。グリーン、水色、ピンクといったヴィヴィッドなカラーパレットから、クリアな白、プレイフルな細かな柄物まで。どの色を選ぶかで、その日の個性を表現できる。
──もっとも、現地の人々は「たまたまそこで売ってた色」を買っているだけだが。
シルエットは、潔いワンサイズのプルオーバータイプ(M〜L相当)。頭からガバッとかぶる、そのラフさが今の気分にぴったりだ。
秀逸なディテールが、チープシックを格上げする
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一見シンプルだが、計算されたディテールが光る。
フーディのドローストリング(絞り)には、あえて存在感を消した「極細の糸」を採用。これにより、素材のビニール感が際立ち、ミニマルな印象を加速させる。
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秀逸なのは袖口だ。キュッと絞られたゴム素材が雨の侵入を完璧にガードしつつ、クシュっとした「ギャザー」がフェミニンなアクセントとして機能している。 軽量素材で動きやすく、アクティブな旅の動きを一切妨げない。
──ちなみにベトナムではこのプルオーバータイプ以外にも、バイクのハンドルまですっぽり覆うポンチョ型が大人気だ。さらに驚くべきは「2人乗り用」のビッグサイズ。運転手と後部座席の2人をまるごと包み込むこのスタイルは、日本では絶対に見られない。長距離移動派には上下セパレート型もある。ベトナムのレインコートは、想像以上に奥が深い。
スタイリング提案:モデルが着こなす「アーバン・ベトナム」
今回、現地で出会ったベテランスタイリスト(※路上の雑貨屋のおばちゃん)にチョイスしてもらったのは、鮮やかなグリーン。
このコートのポテンシャルを最大限に引き出すのは、インナーに忍ばせた「白T」。半透明の素材が白Tのクリーンさを拾い、驚くほど発色を良く見せてくれる。
そして、最強の相棒はベトナムの象徴「ノンラー(円錐形の笠)」。これぞ究極のローカルスタイル。
<サイズ感レポート>
身長180cmの筆者には、袖が10cmほど短く、ややコンパクトな着こなしに。だが、その「アンバランスさ」が、逆にモードな”抜け感”を演出する。
着丈は太ももまでをカバー。ロングパンツを合わせると裾が濡れてしまうため、ショートパンツとサンダルで軽快にまとめるのが正解だ。ちなみに、ベトナムの人々もスコール時はサンダル率が高い。布製スニーカーは一瞬で水没するこの国では、サンダルが最強の雨フットウェアだ。
エディターズ・ノート:旅先で手に入れる「儚い」トレンド

このコートは、スーパーやコンビニ(Circle Kなど)、そして雨が降り出せばどこからともなく現れる露天商から手に入る。
気になるプライスは、10,000〜50,000ドン(約60〜300円)。薄手の使い捨てタイプなら10,000〜20,000ドン(約60〜120円)、スナップボタン付きのやや厚手なら20,000〜40,000ドン(約120〜240円)、繰り返し使える本格派でも50,000ドン(約300円)程度だ。ハイブランドもびっくりのコストパフォーマンスである。
購入時はコンパクトに畳まれているが、一度広げると元通りに畳むのは至難の業。
そして耐久性──これは正直に書こう。薄手タイプは1〜2回で破れることもある。一方、厚手タイプなら洗って乾かせば数ヶ月は持つ。価格帯で耐久性がまったく違うので、自分の旅のスタイルに合わせて選びたい。
だが、薄手タイプにはその「儚さ」にこそ価値がある。
旅先で出会い、スコールを一緒にしのぎ、旅が終わる頃には役目を終える。それこそが、このアイテムを最も粋に着こなすTIPSだ。
旅行者のための雨季・スコール対策
ここからはファッション誌のトーンを脱いで、旅行者のためのガチの実用情報をお届けする。
スコールとは何か
ベトナムの旅で多くの旅行者が体験するのが、突然空が暗くなり、バケツをひっくり返したような激しい雨が叩きつける「スコール」。とはいえ、日本の梅雨のように一日中降り続くことは稀(台風シーズンを除く)。”ザッと降って、スカッと止む”のがスコールの特徴で、30分〜1時間ほどカフェで雨宿りすれば、また太陽が顔を出す。
雨季はいつ?(地域別)
ベトナムは南北に長いため、地域によって雨季の時期が異なる。
・南部(ホーチミンなど): 5月〜10月頃。特に午後3時〜6時にスコールが集中しやすい ・中部(ダナン、ホイアンなど): 9月〜1月頃。特に10月〜11月は大雨・台風シーズン ・北部(ハノイなど): 5月〜9月頃。7月〜8月に降雨量がピークに
雨季の気候について詳しくは、こちらの記事でまとめている。
スコール中、街はどうなる?
知っておくべきリアルがある。ホーチミン市では、スコールの後に道路が10〜30cmほど冠水することも珍しくない。 それでも多くの人はバイクで普通に走っている。水しぶきを上げながら走るバイクの群れは、初めて見ると衝撃的だ。
旅行者のための雨対策5か条
① 傘よりレインコートを買え。 ベトナムでは傘は「歩行者の雨具」。バイクタクシー(Grab)に乗るなら、レインコートの方が圧倒的に実用的だ。
② 濡れたレインコートを入れるビニール袋を携帯せよ。 使用後のレインコートはびしょ濡れ。バッグに直接入れると中身が全滅する。コンビニ袋を1枚持っておくだけで、その日の快適度が劇的に変わる。
③ 足元はサンダル一択。 スコール中に布製のスニーカーを履いていると、一瞬で水没して一日中不快になる。雨季のベトナム旅行はサンダルを持ち物リストに入れておこう。
④ スマホの防水対策を忘れるな。 スコールは突然来る。ジップロックに入れておくか、防水ケースがあると安心。通信手段の準備と合わせて対策しておきたい。
⑤ 雨宿りを楽しめ。 スコールは30分〜1時間で止むことが多い。カフェに飛び込んでベトナムコーヒーを一杯。これが、在住者がたどり着いた最高の雨の過ごし方だ。
雨季のベトナム旅行、結局何を持っていけばいい?
ここまで読んで「で、パッキングリストに何を足せばいいの?」と思った人のために、端的にまとめる。
- レインコート → 現地で10,000〜50,000ドン(約60〜300円)で買える。日本から持っていく必要なし
- サンダル → 雨季の足元はこれ一択。布製スニーカーは一瞬で水没する
- 速乾素材のパンツ → 綿パンは乾かない。濡れる前提で選ぶ
- スマホ防水ケース or ジップロック → スコールは予告なしに来る
- ビニール袋1〜2枚 → 濡れたレインコートやサンダルを隔離する用
もっと詳しいパッキングについては、持ち物チェックリストの記事にまとめている。
雨季の地域別ベストシーズンや気温については、服装ガイドも参考にしてほしい。
よくある質問(FAQ)
ベトナムのレインコートはどこで買える?
コンビニ(Circle K、GS25)で1〜2万ドン(約60〜120円)の使い捨てタイプが買えます。少し良いものはスーパーや雑貨屋で5〜10万ドン。
折りたたみ傘とレインコート、どっちが便利?
レインコートが圧倒的に便利。ベトナムのスコールは横殴りの風を伴うことが多く、傘では防ぎきれません。バイク移動時もレインコートが標準装備です。
日本から雨具を持っていくべき?
こだわりがなければ現地調達で十分。ただし撥水性の良いウインドブレーカーは日本から持参すると重宝します。
おわりに
ベトナムの使い捨てレインコートは、約60円から買える「何でもないモノ」だ。
でも、住んでいるとわかる。雨が降るたびに路上のおばちゃんからサッと買い、ガバッと被り、止んだら脱いで丸めてポイする──この一連の動作に、ベトナムの人々の生き方が透けて見える。
日本人は天気予報を見て、折り畳み傘をバッグに入れて、「万が一」に備える。ベトナム人は、降ったらその場で60円のレインコートを買う。どちらが正解という話ではない。ただ、この国では「完璧に備える」より「その場で順応する」方がうまくいく場面が、圧倒的に多い。
ベトナムの道路を横断するコツも同じだ。信号を待っていたら一生渡れない。流れを読んで、歩き出す。
60円のレインコートは、その哲学のいちばん身近な象徴かもしれない。
スコールが来たら、迷わず一着手に取ってほしい。