初めてベトナムでトイレに入った瞬間の衝撃
日本で生まれ育った人間が、初めてベトナムのトイレに入るときの反応は、ほぼ例外なくこうです。
「え、紙、流せないの!?」
——そして次の瞬間、便座の横に目をやって固まります。
銀色に輝く金属ホース付きノズル。
まるでSF映画の小道具みたいなそれを見て、誰もが心の中でつぶやくのです。
「これ……どう使うんだ?」

東南アジアの“ショットガン文化”との遭遇
これはいわゆるハンドシャワー。
2025年現在も東南アジアではどこに行ってもこの“水鉄砲”が鎮座しています。タイ、マレーシア、インドネシア、そしてベトナム。現地では「ウォーターピストル」や「ショットガン」なんて呼ばれていることもあります。
そして旅行者は2派に分かれます。
1つは、ショットガン派。
「お尻めがけて撃てばいいじゃん!」という勢いタイプ。最初は角度を間違えてトイレを水浸しにしますが、2日目にはほぼ狙撃兵。
もう1つは、左手派。
「いや、違う。右手で水を流して、左手で洗うのが正統」と主張する古参。有名な旅行作家・下川裕治さんもAERA.dotでこう書いています。
右手でシャワーを持ち、不浄の左手に水をかけ、左手で洗うのが正解
つまり、あのノズルはウォシュレットではなく、左手を洗うための道具なのです。
……いや、初見でそんな哲学的構造、理解できるか!
ベトナム人のリアルな使い方
現地の若者たちはこの2派をミックスしたハイブリッド型。
まずショットガンで全体を洗い流し、最後に紙で仕上げる。「紙+水」の合わせ技で、見事に清潔と快適の両立を果たしています。
都市部では、4つ星以上のホテルなら紙を流してもOK。配管が太く、水圧も強いので日本人旅行者でも安心。
ただし、地方やカフェでは依然として紙NG+ハンドシャワー必須。うっかり流すと、スタッフが静かにドアをノックしてくる羽目になります。

初心者のためのハンドシャワー指南
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角度は45度。背後からそっと。
勢いよく前方射撃すると、便座もズボンもびしょ濡れ。 -
水圧は半押し。
全開はもはや「滝行」。 -
洗い終わったら、紙で軽く水気を拭き取る。
慣れてくると、妙な爽快感がクセになる。
中には「手桶式の方が味がある」と言う玄人旅人もいますが、現代のベトナムではショットガン式が主流。
数日もすればあなたも“東南アジア狙撃隊”の一員になれるはずです。
清潔観の違いは、文化の違いそのもの
日本は“紙で拭く”文化。
ベトナムや東南アジアは“水で清める”文化。
どちらも清潔を追求した結果、別の道を選んだだけです。
東南アジアの人々にとって、「紙で拭くだけ=洗っていない」に近い感覚だそう。対して日本人は「水で洗う=濡れて気持ち悪い」と感じる。
価値観の反転こそ、旅の面白さですね。
ホテル選びはトイレ選びでもある

旅行者にとってのライフライン、それがトイレ。
もし“紙文化の安心感”を求めるなら、4つ星以上のホテルを選びましょう。このランクからは、紙も流せて、水圧も完璧。もはや「ミニ日本」です。
一方で、“異文化体験”をしたい方はぜひローカル宿へ。ハンドシャワーの角度ひとつで、自分の文明観が変わるかもしれません。
トイレから見える、人間の哲学
トイレは文化の鏡。
どんなに経済が発展しても、清潔の定義は国によって違う。紙を流す国、水で流す国、左手を使う国。その多様さに触れることこそ、旅の醍醐味です。
つまり、ハンドシャワーを前に戸惑う時間も、実は“異文化との出会い”そのものなんです。
笑って、驚いて、少しだけ悟って。旅はそんな些細な瞬間にこそ、深みがある。
まとめ|文化ギャップを笑い飛ばせば、旅はもっと自由になる

ベトナムのトイレ事情は、最初こそカルチャーショックの連続。
でも、一歩踏み込めば“水で清める”という古くて美しい習慣に気づきます。慣れれば、ウォシュレットより爽快。
笑いながら、異文化を知る。その感覚を味わえる国、それがベトナムです。