ベトナムで「甘いものが食べたい」と言うと、だいたいの人が「チェー食べに行こう」と返してくる。
ベトナムのチェー(Chè)は、豆やフルーツ、ココナッツミルクなどを使った伝統的な甘味で、冷たいものも温かいものもある。 日本語に訳そうとすると途端に困る食べ物だ。「ぜんざい」と言えば近いけど、冷たいものもある。「かき氷」と言えばそれも一部は合ってるけど、温かいチェーもある。「パフェ」に似てる現代版もあるし、豆を煮ただけの素朴なものもある。
要するに、チェーは一つのデザートの名前じゃない。ベトナムの「甘いもの」を丸ごと包む言葉だ。
ハノイに住んでいると、チェーは「デザート」というより「生活」に近い。学校帰りに友達と食べに行く。暑い日に屋台で一杯。涼しくなったら温かいチェーで体を温める。ベトナム人にとって、チェーは子ども時代から続く日常の一部だ。
この記事では、チェーの種類、材料、ハノイのおすすめ店、作り方の実体験まで、在住者の視点でまるごと紹介する。
ベトナムのチェーとは?──日本人にどう説明するか
ベトナムで一番身近な甘い食べ物は何かと聞かれたら、多くの人が「チェー(Chè)」と答える。
ただ、日本人に説明するのが少し難しい。チェーはケーキやアイスクリームのように一つの決まったデザートの名前ではなく、さまざまな種類の甘いデザートをまとめて呼ぶ言葉だ。
わかりやすく言うなら、こうなる。
チェーは、ベトナムの伝統的な甘いデザートで、スープのような形の甘味。小さな器に入れて食べることが多く、豆やフルーツ、ゼリー、タピオカ、ココナッツミルクなど、さまざまな材料が使われる。種類によって、温かいものも冷たいものもある。

日本の甘味で近いものを挙げるなら、ぜんざいとあんみつがわかりやすい。ぜんざいは豆を煮た甘い料理という点で共通するし、あんみつは一つの器にゼリー・豆・フルーツなどいろいろな具材が入っている点で似ている。
ただ、ベトナムのチェーには日本の甘味とは違う特徴がたくさんある。
材料のバリエーションがとにかく豊富。 豆のほかにも、バナナ、とうもろこし、さつまいも、タピオカ、白玉のようなもの、さまざまなゼリーが使われる。そして、ベトナムのチェーでもっとも特徴的な材料がココナッツミルク。これが独特の甘い香りとコクのある味わいを生む。
食べ方がとても自由。 暑い夏の日には氷を入れて冷たく食べるチェーが人気。一方で、涼しい日や寒い季節には温かいチェーを食べる。「温かいチェーもあるの?」と驚く日本人は多いけど、ベトナムでは冬にチェーで体を温めるのはごく普通のことだ。
そしてもう一つ大事なこと。チェーは食後のデザートだけじゃない。ベトナムではおやつ(軽食)として、午後に友達と食べに行ったり、学校や仕事帰りに立ち寄ったりする。街を歩けば、道ばたや市場の中、住宅街の小さな通りなど、いたるところにチェーのお店がある。
だからこそ、ベトナム人にとってチェーは「ただの甘い食べ物」ではなく、日常生活の一部と深く結びついた存在になっている。
ベトナムのチェーの種類──伝統チェーから現代チェーまで
チェーについて知ると、まず驚くのはその種類の多さだ。数種類ではなく、材料や調理方法によって数十種類、場合によっては数百種類ものチェーが存在する。
大きく分けると、伝統的なチェー(昔から家庭で母や祖母が作ってきたもの)と、現代的なチェー(チェー専門店やデザートショップで生まれた新しいスタイル)の2つがある。
伝統的なチェー──素朴だけど奥が深い
多くのベトナム人にとって、「チェー」と聞いて最初に思い浮かぶのは伝統的なチェーだ。素朴で飾らない料理だが、地域や家庭ごとに作り方が微妙に異なり、それぞれに個性がある。
よく使われる材料はとても身近なもの。黒豆、小豆、緑豆、とうもろこし、バナナ、さつまいも、もち米など。多くの場合、材料をまず水に浸してから、砂糖水で柔らかくなるまで煮る。そこにココナッツミルク、タピオカ、ピーナッツ、乾燥ココナッツなどを加えて、コクと香りを出す。
代表的な伝統チェーをいくつか紹介する。
緑豆チェー(Chè đậu xanh)

ベトナムでもっとも一般的なチェーの一つ。皮をむいた緑豆を砂糖と水で煮て作る。地域や家庭によってココナッツミルクやパンダンリーフを加えることもある。
完成したチェーは緑豆特有のやさしい黄色で、ほどよい甘さとやわらかな香りが特徴。温かくても冷たくても食べられるのがこのチェーの面白いところで、温かい状態ならココナッツミルクの香りがより広がり、氷を入れて冷やせば暑い日にぴったりの爽やかなデザートになる。
緑豆は植物性タンパク質やビタミンが豊富で、ベトナムでは体を冷やす効果があるとも言われている。最近では砂糖を控えめにしたり氷砂糖を使ったりする人も増えてきた。
黒豆チェー(Chè đậu đen)
黒豆を砂糖水で柔らかく煮て、ココナッツやタピオカを加えるチェー。ほくほくとした豆の食感と、さっぱりした甘さが特徴。暑い日には氷を入れて食べる人が多く、夏の定番デザートでもある。
子どもの頃、学校が終わると近所の子どもたちと一緒に市場の屋台へ黒豆チェーを買いに行くのが日常だった。ほんの少しのお金で一杯買えて、友達とおしゃべりしながら食べる。ベトナムの学生ならほぼ全員が持っている記憶だと思う。
バナナチェー(Chè chuối)
熟したバナナ、ココナッツミルク、タピオカを使って作る、コクのある味わいのチェー。煮上がるとバナナは柔らかくなり、ココナッツミルクの香りが広がる。食べるときに炒ったピーナッツや削ったココナッツをかける人も多い。
午後や夜、少し涼しい日のデザートとしてよく食べられる。道ばたの小さなチェー屋に立ち寄ると、このバナナチェーの甘い香りが漂ってくることがある。
チェー・チョイ・ヌオック(Chè trôi nước)──温かいチェーの代表格
「温かいチェーもあるの?」という日本人の疑問に、もっともわかりやすく答えてくれるチェーがこれだ。
もち米粉の生地で作った団子の中に、緑豆や黒ごまのあんを入れ、しょうが入りの甘いシロップで煮る。

外側はもちもち、中はやさしい甘さでほくほく。しょうがの温かいシロップと合わさって、日本の「もち(mochi)」に近い食感が楽しめる。
食べるときにはココナッツミルクを少しかけ、炒ったごまやピーナッツを添える。涼しい日や冬に食べると、体の芯から温まる。
キャッサバチェー(Chè sắn)
キャッサバ(芋の一種)を砂糖水で柔らかく煮込み、生姜とココナッツミルクを加えたチェー。やさしい甘さ、生姜のほんのりした辛味、ココナッツミルクのまろやかなコクが調和する。
チェー・チョイ・ヌオックと同じく温かいうちに食べるチェーで、午後や夜の時間にぴったり。道ばたの屋台から生姜とココナッツミルクの香りが漂ってくると、つい立ち止まってしまう。
グレープフルーツチェー(Chè bưởi)
グレープフルーツの皮の白い部分(わた)を使うという、独特のチェー。苦味を丁寧に除いてタピオカ粉と混ぜて加熱すると、コリコリとした弾力のある食感になる。緑豆とココナッツミルクと合わせて、冷やして食べることが多い。
ゼリーや和菓子のような食感が好きな人には、新しい食体験になるはず。
ミックスチェー(Chè thập cẩm)
小豆、緑豆、黒豆、ゼリー、タピオカ、削ったココナッツ……いろいろな材料を一つのカップに入れて、シロップとココナッツミルクをかけたチェー。まさに「thập cẩm(ミックス)」の名前通り、一杯でさまざまな味と食感を楽しめる。

暑い夏の日に氷をたっぷり入れたミックスチェーを食べると、体の中から涼しくなるような気持ちになる。ベトナムの学校帰りの定番おやつでもある。
このほかにも、とうもろこしチェー(chè ngô)、蓮の実チェー(chè sen)、さつまいもチェー(chè khoai)、小豆チェー(chè đậu đỏ)など、伝統的なチェーだけでもまだまだたくさんある。
現代的なチェー──ベトナム版パフェの世界
伝統的なチェーに加えて、近年のベトナムでは現代チェー(モダンチェー)が急増している。

新鮮なフルーツ、ゼリー、ミルク、アイスクリーム、さまざまなトッピングを組み合わせた、見た目もカラフルで華やかなデザート。若い世代や観光客にとても人気がある。
伝統的なチェーが道ばたの屋台や市場の小さな店で売られることが多いのに対し、現代のチェーはデザートカフェやおしゃれなチェー専門店で提供される。大きなグラスやカップに層になった材料が見え、写真映えも抜群。多くの人にとって、現代のチェーはベトナム版のパフェ(parfait)のような存在だ。
代表的な現代チェーを紹介する。
チェー・クックバック(Chè khúc bạch) ──牛乳、生クリーム、ゼラチンで作った柔らかく滑らかな白いゼリー状のデザート。日本のプリンやミルクゼリーに少し似ている。ライチやロンガン、スライスしたアーモンド、軽く甘いシロップと一緒に食べる。さっぱりした甘さで爽やか。
チェー・タイ(Chè Thái) ──マンゴー、ジャックフルーツ、ドラゴンフルーツなどのフレッシュフルーツに、ココナッツミルクやゼリーを合わせたチェー。氷を入れて冷たく食べるのが定番で、暑い季節に特に人気。
フルーツチェー(Chè trái cây)

──さまざまな新鮮なフルーツをゼリーやミルクと組み合わせたチェー。自然な甘さとカラフルな見た目が魅力。
チェー・ケム(Chè kem) ──チェーやフルーツの上にアイスクリームをのせたデザート。冷たいアイスクリームと甘いチェーの組み合わせが楽しい。
チェー・ズア・ザム(Chè dừa dầm) ──若いココナッツの果肉、ココナッツゼリー、ミルク、かき氷で作る。ココナッツの香りが豊かで、特に夏に人気。
チェーから広がった「甘味の世界」
ベトナムでは、チェーから派生してさまざまな甘い食べ物が生まれている。厳密にはチェーと呼ばれないけれど、チェー屋さんのメニューに並んでいることも多く、「チェーの仲間」として知っておくと便利だ。
タオフー(tào phớ)は、やわらかい豆腐のような食感のデザート。冷たいシロップやトッピングをかけて食べる、暑い日の定番。ソイチェー(xôi chè)は、おこわとチェーを一緒に食べるハノイらしい組み合わせ。ケムソイ(kem xôi)は、もち米の上にアイスクリームをのせた甘い食べ物で、若い世代に人気。フルーツヨーグルト(sữa chua hoa quả)は、ヨーグルトに果物やゼリーをトッピングしたもので、チェー屋さんで一緒に売られていることが多い。
これらに共通するのは、「豆・もち米・フルーツ・ゼリー・ココナッツミルクを自由に組み合わせる」という発想。チェーは単独の料理ではなく、ベトナム独特の「甘味の組み立て方」そのものだと言える。
チェーは地域で違う?──北部・中部・南部の個性
ベトナムは縦に細長い国で、北部・中部・南部で食文化が大きく異なる。チェーもその例外ではない。同じ「チェー」と呼ばれても、地域によって甘さ、トッピング、食べるスタイルがずいぶん違う。
北部(ハノイ中心)のチェーは、甘さ控えめで素朴な味が特徴。緑豆チェーや黒豆チェー、チェー・チョイ・ヌオックなど、古くからの伝統的なチェーが今も愛されている。ココナッツミルクも比較的薄めに使い、素材そのものの味を大事にする。子ども時代の記憶と結びついた、「懐かしい甘さ」を重視する文化だ。
中部(フエ・ダナンなど)は、甘さがはっきりと強い。中部の料理全般が味付けの濃さで知られるが、チェーも例外ではない。少量のトッピングで食感のコントラストをつけたり、塩をほんの少し加えて甘さを引き立てたりと、独特の味付けの技がある。ダナン発祥の「チェー・サウ(chè sầu)」はドリアンの濃厚な甘さが印象的で、近年はハノイにも支店が広がっている。
南部(ホーチミンなど)のチェーは、見た目もカラフルで、アレンジが自由。チェー・バー・マウ(chè ba màu、三色チェー)やチェー・クックバックなど、ビジュアル重視の現代チェーは南部から広まったものが多い。氷をたっぷり入れて、暑い気候に合う「冷たいデザート」としての性格が強い。
同じベトナム国内でも、ハノイの小さな屋台で食べる素朴な黒豆チェーと、ホーチミンのカフェで食べる華やかなフルーツチェーは、まるで別の食べ物のように感じることがある。それくらい、チェーは土地の気候と暮らし方を映す食べ物だ。
チェーの材料──ココナッツミルクは「チェーの魂」
チェーに使われる材料は幅広いが、一つだけ特別な存在がある。ココナッツミルクだ。
ベトナムでは「nước cốt dừa là linh hồn của chè(ココナッツミルクはチェーの魂)」という言い方がある。

新鮮なココナッツの果肉をすりつぶして絞り、軽く加熱すると独特の香りとコクが生まれる。ほんの少し加えるだけで、チェーの味わいはぐっと豊かになる。
伝統的なチェーではやや濃く、とろみのある状態で使われることが多い。バナナチェー、キャッサバチェー、豆のチェーなど、白いココナッツミルクをかけると昔ながらの味わいになる。
一方、現代的なチェーでは少し薄めて軽い味わいにし、フルーツやトッピングの味を引き立てるように工夫されている。味を豊かにするだけでなく、見た目も白くなめらかで美しくなる。
そのほかの主な材料をまとめると:
- 豆類: 緑豆、黒豆、小豆、白いんげん豆
- 芋・穀物: キャッサバ、さつまいも、もち米、とうもろこし
- フルーツ: バナナ、マンゴー、ジャックフルーツ、ドラゴンフルーツ、ライチ、ロンガン
- 食感を加えるもの: タピオカ、各種ゼリー(仙草ゼリー、寒天など)、もち米粉の団子
- 風味づけ: 砂糖、生姜、パンダンリーフ、バナナエッセンス
- トッピング: 炒ったピーナッツ、ごま、削ったココナッツ、アイスクリーム
ハノイのおすすめチェー屋──旧市街から地元の路地まで
ハノイは有名なチェーのお店が集まる街だ。旧市街の小さな通りを歩いているだけで、道ばたのチェー屋台や長年続くお店を簡単に見つけることができる。通りや路地、住宅街を歩いていると、小さなテーブルと椅子を置いただけのチェー屋があちこちにあり、チェーがいかにハノイの日常に溶け込んでいるかがわかる。
ただ、ハノイ在住者としてひとつ伝えておきたいことがある。ベトナム人は「有名な店」でチェーを選ばない。選ぶのは「今日食べたいチェー」の方で、その一杯を出してくれる馴染みの店に足を運ぶ。クックバックが食べたい日はクックバックの店へ、ミックスチェーが食べたい日は古くからのチェー屋へ、といった具合だ。
だから、この先で紹介する店もぜひ「何を食べたいか」から選んでみてほしい。観光客が多い旧市街の店も、地元の人が毎日通う路地裏の店も、それぞれにまったく違う魅力がある。
旧市街で食べる──観光のついでに立ち寄れる老舗
旧市街のチェー屋は、ハノイ観光のついでに気軽に寄れるのが魅力。歴史のある老舗が多く、「ハノイらしい素朴なチェー」を味わいたい人には一番わかりやすい選択肢だ。
Xôi Chè Bà Thìn(ソイ・チェー・バー・ティン) ──バットダン通り(Bát Đàn)にある、ハノイでもっとも有名なチェー屋の一つ。何世代にもわたって愛されてきた老舗。緑豆チェー、蓮の実チェー、そしておこわ(ソイ)とチェーの組み合わせが特に有名。甘さは控えめで食べやすく、温かいチェーともちもちのおこわを一緒に食べるのがここの楽しみ方。
Chè Bốn Mùa(チェー・ボン・ムア) ──ハンカン通り(Hàng Cân)にある人気店。名前の通り、季節に合わせたチェーを提供している。夏は豆チェーやゼリー入りの冷たいチェー、冬は温かいチェーや「バイン・チョイ・タウ」と呼ばれる団子入りの甘いスープ。一年中通える店。
Chè Hương Hải(チェー・フン・ハイ) ──ハノイ旧市街にある、豊富なメニューが特徴のチェー屋。伝統的なチェーから現代風にアレンジされたチェーまで幅広く揃っており、緑豆チェー、蓮の実チェー、ミックスチェーなど多彩な味を一度に楽しめる。

さらに、チェーだけでなくバインミーや軽食のブン、各種ドリンクなども提供していて、甘味から食事まで一度に楽しめる。庶民的で入りやすい雰囲気と便利な立地から、旧市街を訪れる観光客にも地元の人にも定番の立ち寄りスポット。
旧市街の屋台・路地裏──飾らない「ハノイのチェー」
ハノイの本当のチェー体験は、名前のない小さな屋台にあると思う。住宅街や市場の中、路地の入り口に、小さなテーブルと椅子を並べただけのお店。ここで食べる黒豆チェーや緑豆チェーは、飾り気がないぶん、昔からベトナム人が食べてきたそのままの味を感じられる。

個人的に印象に残っているのは、旧市街で夜にチェーを食べた体験だ。夕方になって涼しくなると、チェーのお店はだんだんお客さんでにぎわう。ベトナム人だけじゃなく外国人もたくさんいて、時にはベトナム人より多いこともある。小さな椅子に並んで座り、スプーンが器に当たる音が聞こえ、ココナッツミルクの甘い香りが空気に広がる。にぎやかだけど、どこか温かい雰囲気がある。
旧市街の外で食べる──地元の人が通う店
ハノイ在住者の日常に一番近いチェーは、実は旧市街の外にある。住宅街や学生街の小さな店こそ、「有名だから選ぶ」のではなく「好きな一杯を食べたいから通う」ベトナム式のチェー文化が生きている場所だ。以下は、そんな地元密着型のチェー屋を地区別に紹介する。
Chè Nhà Suvy(チェー・ニャー・スヴィ)/クックバック好きに
住所:33 Quang Trung, Hoàn Kiếm(旧市街から徒歩15分ほど)
クックバック(ミルクゼリー状のデザート)で名前が知られた店。青い陶器の器に盛られる、ふわふわのクックバック、アーモンドスライス、ロンガン、控えめなシロップが絶妙のバランス。クックバック目当てに遠くから通う人も多い、ハノイのクックバック愛好家にとっての基準となる一軒。
Chè Thập Cẩm Cũ 1976(チェー・タップカム・クー・1976)/1976年創業の老舗
住所:72C Trần Hưng Đạo, Hoàn Kiếm(ホアンキエム湖から徒歩圏内、路地の奥)
1976年から半世紀にわたり味を守り続けている、ハノイでもっとも有名な伝統チェー屋の一つ。ミックスチェーには10種類近くの具材が入り、とろりと濃厚なココナッツミルク、手作りの大粒タピオカ、もち米を炒めた「コム・サオ」など、ほかの店ではなかなか味わえない要素が揃う。一杯60,000〜90,000ドンとハノイのチェーとしてはかなり高めだが、それでも連日客が絶えない。
Chè Sầu Thể Giao(チェー・サウ・テーザオ)/ダナン系チェー・サウ
住所:7 Thái Hà, Đống Đa(Thái Hà支店。本店は12A Thể Giao)
ダナン発祥の「チェー・サウ」をハノイに広めたチェーン店。店名の通りドリアン(sầu riêng)の風味が主役で、ミルクとココナッツミルクをブレンドした濃厚な甘さが特徴。ドリアン好きにはたまらない一杯だが、苦手な人ははっきり分かれる味でもある。ハノイで現代的なチェー文化がどう広がっているかを感じたい人におすすめ。
Chè Chang Hi(チェー・チャン・ヒ)/現代フルーツチェーの人気チェーン
住所:ハノイ市内に複数店舗(代表店:113 Xã Đàn, Đống Đa)
フルーツとトッピングをたっぷり使った、見た目のカラフルな現代チェーが中心。パフェ感覚で楽しめるので、伝統チェーが「やや素朴すぎる」と感じる人や、若い世代、観光客の最初の一杯として入りやすい店。
Chè Hoa Quả Khâm Thiên(チェー・ホアクア・カムティエン)/路地奥の20年老舗
住所:67 Ngõ Lệnh Cư, Khâm Thiên, Đống Đa
20年以上にわたって地元の学生や社会人に愛されてきた、細い路地の奥にある小さな店。店主が毎日市場から仕入れる旬のフルーツを使った「ホアクア・ザム(フルーツサラダのようなチェー)」や、手作りのカラメルと組み合わせた一杯が名物。観光客向けではなく、ハノイの日常の甘味を体験したい人にこそ行ってほしい一軒。一杯15,000〜20,000ドンと価格も良心的。
Chè Thái 117 Đội Cấn(チェー・タイ・117 ドイカン)/バーディン区のローカル店
住所:117 Đội Cấn, Ba Đình
ゼリーとココナッツミルクがたっぷり入った、タイ風チェー(chè Thái)の定番店。ココナッツミルクのコク、氷の冷たさ、ゼリーの食感がシンプルに噛み合った、初心者にも食べやすい一杯。バーディン区は観光地からは少し外れているので、ハノイの生活圏に入っていく感覚も味わえる。
おすすめの楽しみ方
一度は道ばたのチェー屋台に座って地元の生活の雰囲気を感じ、もう一度は現代的なお店で創造的なデザートを楽しんでみてほしい。どちらもまったく違う魅力がある。
そして、もう少し時間があるなら、旧市街の外に足を伸ばしてみてほしい。観光ルートから一歩離れた場所にこそ、ベトナム人が「自分の一杯」を求めて通う、日常のチェー文化が広がっている。
チェーを作るのは簡単?──実際にやってみた
甘くてシンプルに見えるチェーだが、実際に作ってみると意外に難しい。私自身、学生時代に料理教室でチェー作りを学んだ経験がある。
最初は、材料を入れて砂糖と一緒に煮れば完成すると思っていた。しかし、実際に作ってみると全然違った。あるときは甘すぎる、あるときは味が薄い。豆が十分に柔らかくなっていなかったり、ココナッツミルクが濃すぎてチェー本来の味を消してしまったり。おいしいチェーを作るには、見た目以上に繊細な調整が必要だということを実感した。
伝統的なチェーの味を覚えたのは、母や祖母からだった。豆をどのくらい浸すか、砂糖はいつ入れるか、ココナッツミルクをどう作ればちょうどよい濃さと香りになるか。こうしたシンプルなコツが、実は一番大事だった。
一方、現代的なチェーの技術は料理教室の先生から学んだ。材料の準備、味のバランスの取り方、美しい盛り付けの方法まで。
何度も練習を重ねた結果、ようやく思い通りのチェーを作れるようになった。おいしいチェー一杯には、時間と経験と、細かい工程への注意が必要だということを身をもって学んだ。
チェーはいつ食べる?──「いつでも」が正解
ベトナムでは、チェーは一日のほとんどどの時間でも食べることができる。食後のデザートだけじゃなく、軽食やおやつとして考えられているからだ。
午後 ──もっとも一般的なチェーの時間。学校や仕事が終わったあと、小さなチェー屋に立ち寄って友人と話しながら休憩する。やさしい甘さが、長い一日のあとにちょうどいい。
夜 ──ハノイでは夕食後に街を散歩しながら、道ばたのチェー屋で軽い甘さのチェーを楽しむのがよくある光景。小さな椅子に座り、人々が行き交う様子を眺めながら食べるチェーは格別。
季節でも変わる。 夏は黒豆チェー、フルーツチェー、ミックスチェーなど冷たいチェーが人気。涼しい季節や冬になると、チェー・チョイ・ヌオック、キャッサバチェー、バイン・チョイ・タウなど温かいチェーが好まれる。
チェーにまつわる記憶
ベトナム人にとって、チェーは日常の記憶と結びついている食べ物だ。私自身もそうで、チェーと聞くと学校帰りの風景が浮かぶ。
子どもの頃、学校が終わった後はよく友達と一緒にチェーを食べに行った。学生だからみんなお金はあまり持っていなかったけど、少しずつ出し合えば何杯かのチェーを買えた。暑い日には「今日は黒豆?ミックス?」と相談して、時には冗談で「今日はチェーでご飯の代わりにしよう」なんて話していた。
家では妹がチェー好きで、夕方になると近所の屋台まで一緒に買いに行くことがよくあった。小さなプラスチックの椅子に座って食べたあの時間も、チェーの記憶の一部になっている。
こういう何気ない午後の記憶は、多くのベトナム人が持っているものだと思う。一杯のチェーが、何でもない一日を少しだけ良い一日に変えてくれる。チェーがベトナムで長く愛されている理由は、味だけじゃなく、そういう日常との結びつきにあるのかもしれない。
好みべつ──あなたに合うチェーはこれ
ベトナムのチェーを初めて食べるなら、自分の好みに合わせて選ぶのがおすすめ。
さっぱり・やさしい甘さが好きなら → 蓮の実チェー(chè sen)、緑豆チェー(chè đậu xanh)、黒豆チェー(chè đậu đen)。材料がシンプルで味も軽やか。初めてのチェー体験にぴったり。
温かくてコクのあるデザートが好きなら → チェー・チョイ・ヌオック(chè trôi nước)、キャッサバチェー(chè sắn)。生姜の香りと温かい甘さが体を温めてくれる。もちもちした食感が好きな人には特におすすめ。
冷たくてカラフルなものが好きなら → チェー・クックバック(chè khúc bạch)、フルーツチェー(chè trái cây)、ミックスチェー(chè thập cẩm)。氷と一緒に食べることが多く、見た目も楽しい。
ハノイを訪れたら、いくつか違う種類を食べ比べてみてほしい。それだけで、ベトナムの食文化の奥深さが見えてくる。
FAQ
Q. ハノイでチェーはいくらくらい? 屋台なら1杯15,000〜30,000ドン(約90〜180円)前後、カフェや専門店なら30,000〜70,000ドン(約180〜420円)前後が目安。Chè Thập Cẩm Cũ 1976のような老舗では60,000〜90,000ドンすることもあるが、全体としては手頃な値段で食べられる。
Q. チェーのベトナム語での発音は? 「Chè」は、日本語のカタカナで書くと「チェー」が近い。声調は下がるトーンで、「チェ↘」のように発音する。
Q. チェーのカロリーはどのくらい? 種類や量によって大きく異なるが、一般的なチェー一杯でおおよそ150〜350kcal程度。ココナッツミルクや砂糖の量で変わる。氷入りのさっぱりしたチェーは比較的低カロリー、ココナッツミルクたっぷりの温かいチェーはやや高め。
Q. チェーでお腹を壊すことはある? 屋台のチェーに使われる氷や水が原因でお腹を壊す可能性はゼロではない。心配な人は、チェー専門店やカフェのような衛生管理がしっかりした場所で食べるのがおすすめ。
Q. チェーのお土産は買える? カルディなどの輸入食品店で、チェーの素や材料を扱っていることがある。また、ベトナムの空港やスーパーでも、乾燥タイプのチェーの素が売られている。ただし賞味期限は要確認。
Q. チェーは英語でなんと言う? 一般的には「Vietnamese sweet soup」や「Vietnamese dessert soup」と訳されることが多い。ただし、冷たいチェーや固形のチェーもあるので、「sweet soup」だけでは全体像は伝わりにくい。
Q. ベトナム語で「チェー」はどう書く? 「Chè」と書く。「è」の上のアクセント記号(グレーブアクセント)が下がるトーンを表す。
Q. 地域によってチェーの味は違う? はい、大きく違う。北部は甘さ控えめで素朴、中部は甘さがはっきり強い、南部はカラフルでアレンジが自由。同じ「チェー」でも、土地が変わればまったく別の食体験になる。