ハノイについて調べると、きっと一度は ホアンキエム湖(ホー・グオム)と西湖(ホータイ)この二つの湖の名前を目にするはずだ。
ホアンキエム湖が、千年の歴史を抱えた「古いハノイ」だとしたら、西湖はもっと静かで、もっと個人的な場所だ。
週末には歩行者天国になり、いつも人でにぎわうホアンキエム湖。その一方で、西湖は少し距離を置くように、ハノイの日常をやさしく見守っている。
この記事では、西湖の観光スポット・おすすめの過ごし方から、ハノイの人がこの湖に寄せる特別な感情をまとめた。
ハノイ西湖(ホータイ)とは|基本情報・アクセス
西湖(ホータイ / Hồ Tây)は、ハノイ最大の淡水湖だ。市の北西部、タイホー(Tây Hồ)区に位置する。日本語の旅行サイトでは「タイ湖」と表記されることも多い。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 面積 | 約500ヘクタール(5km²) |
| 一周 | 約17km |
| 旧市街から | Grabで約15分(約5km) |
| ノイバイ空港から | Grabで約30〜40分 |
| ベトナム語 | Hồ Tây(ホータイ) |
湖の南側をタンニエン(Thanh Niên)通りが東西に走っていて、その東側はチュックバック(Trúc Bạch)湖という別の湖になる。チャンクオック寺や西湖府、カフェやレストランは東〜南側に集中していて、西〜北側は東岸に比べるとローカル色が強い。
湖の全景をぐるっと見たいなら自転車がちょうどいい距離感になる。実際レンタルバイクが人気で自転車でサイクリングしている観光客を良く見かける。
西湖周辺の観光スポット
正直に言えば、一度来ただけでは「ただの大きな湖」にしか見えないかもしれない。でも、湖畔には静かに歴史が積み重なっている。
チャンクオック寺(Chùa Trấn Quốc / 鎮国寺)

タンニエン通りから湖に突き出た小島に建つ、ハノイ最古の仏教寺院。創建は6世紀にさかのぼる。
赤い仏塔が湖面に映る夕暮れの景色は、この寺でしか見られない。夕方に訪れると、水面がオレンジに染まるなかで塔のシルエットが浮かび上がる。
開門時間は8:00〜16:00、入場無料。ただし短パンやノースリーブでは入れない。入口で断られると、すかさず近くのおばちゃんが腰に巻くスカートのような布を貸してくれる(有料)。最初から長ズボンで行くのが無難だ。
西湖府(Phủ Tây Hồ)

湖の東岸から半島のように突き出た先にある、ベトナムの民間信仰「聖母道(Đạo Mẫu)」の祠。祀られているのは柳杏聖母(Liễu Hạnh)。
観光客より、ここに来るのは圧倒的にベトナム人だ。旧暦の1日と15日には参拝者が列をなし、線香の煙が湖まで漂ってくる。
入場無料。通常は5:00〜18:00、旧暦の1日と15日は5:00〜21:00まで開いている。チャンクオック寺と同じく、露出の多い服装はNG。門をくぐった先の広場から見える湖の景色も良い。
後述するが、バイントムホータイ(小エビをサツマイモの衣で揚げた天ぷら)のお店もこの近くにたくさんある。
蓮の花(6〜7月限定)

西湖といえば蓮。毎年6月から7月にかけて、湖面にピンクの蓮が広がる。早朝に行くと花が開いていて、蓮の葉に溜まった朝露も見える。ハノイの人にとっては「夏の始まり」を告げる風景だ。
西湖の楽しみ方|自転車・ボート・ランニング
自転車で一周する

西湖を一番よく味わえるのは、自転車だと思う。一周約17km、ゆっくり走って1時間半〜2時間。
湖畔にはレンタサイクルの店が点在していて、相場は1時間50,000VND(約300円)前後。東岸のタンニエン通り付近で借りるのがわかりやすい。
特に夕方のサンセットの時間帯は格別。西岸に沈む夕日を左手に見ながら走る北側のルートは、観光客がほとんどいなくて気持ちいい。
白鳥ボート・SUPボート

湖の東岸には白鳥型のペダルボート乗り場がある。2人乗りで1時間80,000VND(約480円)前後。カップルや家族連れのベトナム人に人気だ。
SUPボード(スタンドアップパドルボード)も近年増えていて、料金は100,000〜200,000VND(約600〜1,200円)程度。早朝や夕方、湖面が穏やかな時間帯がおすすめ。
ランニング・散歩
朝6時台の西湖は、ハノイで最も空気がきれいな場所のひとつ。湖畔のランニングコースは舗装されていて走りやすい。地元のランナーやウォーキングをする年配の方に混じって走ると、観光ではなく「暮らし」の中に入り込んだ感覚になる。
ハノイの大気汚染が気になる人は、AQIが低い早朝を狙うと良い。
西湖ウォーターパーク(夏季限定)
湖の北西エリアにある屋外プール施設。ギリシャのサントリーニをイメージした外観で、4月〜9月の夏季限定で営業する。ウォータースライダーや遊園地も併設されていて、子連れの家族に人気。
西湖で食べる|バイントム・フォークオン・ローカルおやつ
西湖の食は、高級レストランより「湖畔で軽く食べる」くらいがちょうどいい。
バイントムホータイ(Bánh Tôm Hồ Tây)

西湖の名物といえばこれ。小エビをサツマイモの衣で揚げた天ぷらのような一品で、タレにつけて野菜と一緒に食べる。
タンニエン通りの南端、チュックバック湖側に「Bánh Tôm Hồ Tây」という店がある。ここが元祖的な存在で、湖を見ながらビールとバイントムという組み合わせは、在住者にとっても定番だ。1皿60,000〜80,000VND(約360〜480円)程度。
フォークオン(Phở Cuốn)

フォーの生地で肉と野菜を巻いた、ハノイ発祥のライスペーパーロール。実はこのフォークオンも、西湖周辺のグーシー(Ngũ Xã)通りが発祥の地とされている。パクチーが苦手な方は事前に除いてもらいましょう。
西湖アイスとボービア

西湖アイス(Kem Hồ Tây)は、ココナッツやフルーツ味のシンプルなアイスクリーム。湖畔の屋台で5,000〜15,000VND(約30〜90円)。とてもシンプルで素朴な味。
ボービア(Bò Bía)は、ライスペーパーで干しエビ、卵、野菜を巻いたおやつ。こちらも10,000VND前後。
西湖のカフェ

正直に言うと、西湖周辺のカフェをいくつか回ったが、「コーヒーがおいしい」と自信を持って推せる店にはまだ出会えていない。Googleの評価は星5近い店ばかりだが、それは味というより景色への評価だと思う。
ただ、景色は本当にいい。湖を眺めながらぼんやりする、その時間そのものがここでは目的になる。
迷ったら、白鳥ボート乗り場の隣にあるハイランズコーヒー(Highlands Coffee)の水上店舗が入りやすい。チェーン店なのでメニューも価格もわかりやすく、テラス席からは湖と白鳥ボートが目の前に見える。ボートの待ち時間に一杯、くらいの使い方がちょうどいい。
本当におすすめできるカフェが見つかったら、この記事に追記する予定だ。ベトナムコーヒー自体の奥深さについてはベトナムコーヒー完全ガイドで詳しく書いています。
西湖周辺のホテル・宿泊エリア

西湖エリアに泊まると、旧市街とはまったく違うハノイが見える。
東岸は外国人駐在員やビジネスマンが多く住むエリアで、湖畔にはインターコンチネンタルハノイウエストレイクやシェラトンなどの高級ホテルが並ぶ。おしゃれなレストランやスパもこの一帯に集中している。
南側(タンニエン通り付近)は旧市街へのアクセスが良く、観光の拠点としてバランスがいい。
ハノイの家賃相場の記事でも触れているが、西湖周辺はハノイで最も地価が高いエリアだ。日本で言えば麻布や白金のような位置づけで、「暮らすように滞在する」にはぴったりの場所だと思う。
東岸にはスパやマッサージ店も多い。ローカル店なら1時間200,000〜400,000VND(約1,200〜2,400円)、外国人向けの高級スパだと90分で1,000,000VND(約6,000円)前後が目安だ。
西湖周辺の買い物
大きなショッピングモールが2つある。
ロッテモール西湖(Lotte Mall West Lake)は湖の北東側にある大型施設で、映画館・スーパー・フードコートが入っている。ベトナムのお土産をまとめ買いするにもここが便利だ。

シレナショッピングセンター(Sirena Shopping Center)は湖の東岸にあり、外国人向けの商品が揃う。規模はロッテモールより小さいが、西湖散策の途中に立ち寄りやすい。

「悲しいとき、西湖に行ったことがないハノイ人を探すのは難しい」

ここからは、観光ガイドとは少し違う話を書く。
ベトナムには、こんな言葉がある。
「悲しいときに西湖へ行ったことがないハノイ人を、私は知らない。」
西湖は、人が”悲しみ”という感情を知った頃から、そこにあった。そんなふうに言われることもある。
昔、西湖は「浪泊(ラン・バク / Lãng Bạc)」と呼ばれていた。意味は、「さまよい、漂う場所」。
湖へ向かう道は「古魚(コー・グー / Cổ Ngư)」。名前を聞くだけで、少し胸が締めつけられる。
15世紀ごろから、王や詩人たちはこの湖を訪れ、帰りには決まって「なんとも言えない寂しさ」を歌に残した。
21世紀になり、FacebookやInstagramがあっても、ハノイの人にとって、西湖の代わりはまだ見つかっていない。
恋人とけんかしたら、西湖。別れたら、西湖。仕事を失ったら、西湖。将来がよく分からなくなったら、西湖。
理由は違っても、行き着く場所は、なぜか同じだ。
私と西湖の、いくつもの時間

ハノイで暮らし、学び、働いてきた4年間。正直に言うと、自分が何回、西湖に来たのかはもう覚えていません。
西湖は、心の重たいものを少し下ろす場所です。バイクで湖を一周するだけで、胸の中のざわざわが、少し静かになる。
初めてハノイに来た日。何も分からなかったけれど、西湖に行きたいと思いました。
初めて好きな人ができて、一緒に湖を歩いたこと。
告白されたのも西湖でした。 けんかをして、泣いたのも西湖。 試験に失敗した日。 初めての失恋。 何年ぶりかに再会した友人と、長い時間話し込んだ夜。
すべての記憶に、西湖があります。
西湖は、黙って話を聞いてくれる、やさしい友だちのような存在でした。
ある年、湖の魚が大量に死んだことがありました。原因は水質汚染だと言われましたが、私たちは冗談でこう言いました。
「きっと、悲しみを吸い込みすぎたんだ。」
この湖を訪れる人は、誰もが何かしらの想いを、ここに置いていくのだから。

日本にいた頃、新宿御苑の緑の中で半日を過ごしたり、明治神宮や隅田川沿いをゆっくり歩いたりするのが大好きでした。ハノイの西湖を歩くと、あの心地よい開放感を思い出します。
でも、西湖には日本とは違う「特別な表情」がある。目の前にはどこまでも広がる穏やかな湖面があるのに、すぐ後ろにはバイクの騒音や人々のせわしない日常が流れている。その対比が、西湖を西湖たらしめている。
おわりに

西湖は、観光地というより、感情の置き場所なのだと思う。ハノイという忙しい街の中で、人が人のままでいられる、数少ない場所。
もしあなたがハノイに来たなら、予定を一つ減らして、西湖に寄ってみてほしい。きっと、その街が、少し違って見えるはずだから。
ハノイ滞在の全体計画はハノイ旅行攻略ガイドへ。ハノイ旧市街の歩き方やリンラン通りも合わせてどうぞ。