テト(旧正月)の時期、街にあふれる赤い封筒「Lì xì(リーシー)」。
ベトナムのお年玉は、日本と似ているようで、実はルールも距離感もまったく違います。
この記事では、「いつまで貰う?いつから渡す?」「恋人にも渡す?」「金額の目安は?」など、日本人が迷いやすいポイントを、文化の背景とあわせて整理します。
【2026年版】相手別・お年玉(リ・シー)相場早見表
※通貨単位:ベトナムドン(VND)。できるだけ新札(ピン札)を用意するのがマナーです。
| 相手 | 目安(VND) | 補足 |
|---|---|---|
| 恋人・パートナー | 500,000 〜 数,000,000 | 現金ではなくプレゼントのことも多いです |
| 友人の子ども | 50,000 〜 100,000 | 年齢によりますが高額でなくて大丈夫です |
| 職場のスタッフ | 100,000 〜 200,000 | 全員一律にすると無難です |
| アパートの警備員・清掃員 | 20,000 〜 50,000 | 日頃の感謝として渡すと喜ばれます |
| タクシー・Grab運転手 | 10,000 〜 20,000 | お釣りをチップとして渡す程度でOKです |
渡す時のポイント(これだけ押さえればOK)
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金額よりも、「赤い袋(ポチ袋)」に入れて渡すのが大事です(スーパーやコンビニで買えます)
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渡す時は「Chúc Mừng Năm Mới(チュック・ムン・ナム・モイ/明けましておめでとう)」と一言添えると喜ばれます
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ボロボロのお札は避けるのが無難です
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リーシーは旧正月の1日目から3日目までに渡すことが多く、新年の挨拶をした時に渡すのが一般的です
縁起のいい数字・避けられやすい数字
ベトナムでも、お祝いの場では**「4(死を連想する音に近い)」を避ける人がいる**と言われます。
一方で、6・8・9は縁起が良い数字として好まれることもあります。
迷ったら、以下のような「キリの良い金額」が一番安心です。
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50,000ドン
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100,000ドン
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200,000ドン
※ただし、厳格なルールではないので、あまり神経質になりすぎなくても大丈夫です。
ベトナムのお年玉文化―「あげる人」と「もらう人」の境界が曖昧な世界
もし「外国人がベトナムで最も戸惑うテト(旧正月)の習慣」を一つ挙げるとしたら、私は迷わず「お年玉(リーシー)」だと思います。
複雑だからではありません。むしろその逆で、あまりにも柔軟だからです。
「正解のルール」を探そうとすると、かえって答えが見つからない――それがベトナムのお年玉です。
ベトナムでは、お年玉は単に「大人が子どもにお金を渡す行為」ではありません。
それは新年の幸運や健康を願う祝福の気持ちを手渡す行為であり、そのため、渡す相手・受け取る相手の範囲も、他のアジア諸国に比べてずっと広いのです。
いつまで「もらう側」で、いつから「渡す側」になるのか?
「何歳までお年玉をもらえるのですか?」とベトナム人に聞いても、明確な答えは返ってきません。
一般的に、子どもや学生は当然のように「もらう側」です。
しかし成長するにつれ、その境界は少しずつ曖昧になります。決め手になるのは年齢ではなく、家庭や社会の中での立場です。
- 社会人になると、「そろそろ渡す側かな」と自然に感じる人が増えます。
- 結婚すると、その意識はよりはっきりし、親戚の子どもにお年玉を渡す立場になります。
- ただし、30~40代で未婚の場合でも、祖父母や両親、年上の親戚からお年玉をもらうことは珍しくありません。それは「自立していない」という意味ではなく、新年の幸運を願う気持ちなのです。
ここに「正しい・間違い」はありません。
あるのはただ、「今の自分はどの立場にいるか」という感覚だけです。
恋人同士のお年玉―ベトナムならではの文化
ベトナムでは、お年玉は家族や大人と子どもの関係だけに限られたものではありません。
実は、恋人同士でもテトの時期にお年玉を渡すことがあります。
この話を聞いて、日本人や外国人が驚くことも少なくありません。
「恋人同士でもお年玉を渡すの?」
そんな質問はよく聞かれます。
答えは、はい。しかも、とても自然なことです。
恋人へのお年玉には、
「生活を支える」といった意味や、
「多い・少ない」を比べるような意味はありません。
それは、お年玉という形を借りた、新年の挨拶のようなものです。
大切な人に、一年の始まりに
「今年も無事で、元気に、幸せでありますように」
と願う気持ちを伝えるためのものです。
そのため、入っている金額は大きくありません。
ほんの少しのことも多く、ちょっとしたおやつが買える程度のこともあります。
大切なのは金額ではなく、そこに込められた気持ちです。
「新しい一年も、最初にあなたの幸せを願いたい。」
そんな思いが、そっと込められています。
場合によっては、このお年玉が、とても可愛らしいやりとりになることもあります。
渡す側は少し照れながら、受け取る側は驚きつつ、思わず笑顔になる。
その一瞬が、新しい年の始まりを、やさしく温かいものにしてくれます。
もちろん、すべてのカップルがそうするわけではありませんし、しなくてもまったく問題はありません。
それでも、恋人にお年玉を渡すという選択をする人たちにとって、それはとてもベトナムらしい伝え方なのだと思います。
どんなに忙しい一年になっても、どんな変化があっても、それでもなお、相手にいいことが訪れてほしいと願う気持ちを、静かに伝えるための。
結婚したら、もうお年玉はもらえない?
多くのベトナム人にとって、結婚は「渡す側」になる一つの目安です。
しかし、それは「絶対にもらえなくなる」という意味ではありません。
- 結婚した子どもに、親が変わらずお年玉を渡す
- 新婚夫婦に、年長者が「新しい人生への祝福」としてお年玉を渡す
こうした光景も、ごく自然なものとして受け止められています。
厳格なルールはなく、誰もそれを奇妙だとは思いません。
子どもへのお年玉、金額の目安は?
外国人が最も悩むポイントですが、ベトナムでは金額より気持ちが重視されます。
- 親しい親戚の子ども:やや多め
- 友人や近所の子ども:象徴的な金額
- 道で出会った子どもや近所の子:小さな額で十分
最近よく見られる金額は、10,000~50,000ドン程度。
少し余裕があれば、100,000ドンも決して大げさではありません。
この小さな金額で、子どもはおやつを買い、ちょっとした喜びを得て、そして満面の笑顔になります。それで十分なのです。
大人やお年寄りにもお年玉を渡す―とても「ベトナムらしい」風景
ベトナムの特徴的な点は、大人が大人にお年玉を渡すことがあるという点です。
時には、まったく面識のない人に渡されることもあります。
- 路上で働く人
- 行商人
- 一人で新年を迎える高齢者
これは義務ではありません。あくまで、自発的な思いやりです。
私にとって、こうした瞬間こそがベトナムのテトの最も美しい場面です。
小さな赤い封筒が、渡す人と受け取る人の心を同時に温めるのです。
日本人・外国人はどうすれば「好印象」なのか?
答えはとてもシンプルです。気負わないこと。
可能であれば、新札(またはなるべくきれいなお札)を用意すると、より気持ちが伝わりやすくなります。
外国人であるあなたは、
- お年玉を渡す義務はありません
- 渡さなくても失礼にはなりません
それでも「やってみたい」と思ったなら、赤い封筒、小さな金額(10,000~50,000ドン)、そして笑顔だけで十分です。
誰も金額を比べませんし、評価もしません。
「気持ち」が伝わった時点で、それはもう成功です。
日本の「分かりやすさ」と、ベトナムの「やさしさ」
日本のお年玉には、年齢や学年ごとの目安があり、比べる必要が生まれにくい仕組みがあります。
一方、ベトナムのお年玉は、決まったルールがないからこそ、その人との関係や気持ちがそのまま形になります。
どちらが正しい、という話ではありません。
ただ、同じ「お年玉」でも、そこに映っているのは、その国の「人との距離感」なのだと思います。
ベトナムのお年玉には、はっきりとした正解があるわけではありません。
だからこそ、人によって形も距離感も、少しずつ違います。
赤い封筒に何を入れるかよりも、
「誰に、どんな気持ちで渡すのか」
そのほうが大切なのかもしれません。
もしテトの時期に、ベトナムでお年玉を渡す場面に出会ったら、少し立ち止まって、その場に流れている空気や、人の表情を見てみてください。
きっとそこに、ベトナムらしいやさしさが、静かに息づいているはずです。