ベトナム旧正月(テト)の伝統的な食べ物

2026.02.08
文化・歴史

一品一品に込められた意味と、日本のおせちとの美しい共通点

ベトナムの旧正月(テト)について、日本の方からよく聞かれる質問のひとつが、「テトではどんな料理を食べるのですか?」 というものです。

答えは簡単なようで、実はとても奥が深い。

なぜなら、ベトナムのテト料理は「食べるため」だけに存在しているわけではなく、一皿一皿が新年への願いを背負っているからです。

日本のお正月料理・おせちが、意味を大切にしながら美しく整えられているように、ベトナムのテトの食卓にも、長い時間をかけて受け継がれてきた“物語”があります。


日本のおせち料理に感じる、理性と美意識の極み

長く日本で暮らしていると、毎年お正月におせち料理を目にする機会があります。

おせちは量よりも意味を重視し、一品一品がとても丁寧に作られ、重箱に美しく並べられています。

黒豆は健康、数の子は子孫繁栄、伊達巻は学問成就。

どの料理にも明確な意味があり、「新年をどう迎えたいか」が論理的に整理されているのが、日本らしい魅力だと感じます。

おせちは、まさに「考え抜かれたお正月料理」です。


ベトナムのテト料理は「感情」で作られる

一方、ベトナムのテトの料理は、もっと感情に近いところにあります。

量は多く、味も濃く、見た目も賑やか。

それは贅沢を誇示するためではなく、「一年を不足なく過ごしたい」という素朴で切実な願いの表れです。


餅(バインチュン・バインテット)

テトの原点となる料理

ベトナム北部ではバインチュン、南部・中部ではバインテットがテトの象徴的な料理です。

バインチュンは四角い形で大地を表し、バインテットは長い形で幸福が続くことを意味します。

しかし何より大切なのは、家族で一緒に作る時間です。

葉を洗い、もち米を準備し、肉を味付けし、夜通し火を見守る。

この「準備の時間」こそが、ベトナムのテトそのものだと言っても過言ではありません。


豚肉と卵の煮込み(ティットコーチュン)

豊かさと安心の象徴

南部で欠かせないのが、豚肉と卵を甘辛く煮込んだ料理です。

丸い卵と柔らかい肉は、円満・充実・家庭の安定を象徴します。

大鍋で作り、何日も食べ続けることで、「食べ物に困らない一年」を願います。


苦瓜スープ(カンホークアノイティット)

「苦しみは過ぎ去る」

「お正月に苦い料理?」と驚かれることも多いですが、ベトナム語で苦瓜(khổ qua)は「苦しみが過ぎる」という意味を持ちます。

新年にこのスープを食べることで、去年の苦労を手放し、新しい一年を迎えるという願いを込めるのです。


ハム(ゾールア)・揚げ春巻き(ネムラン

円満と人とのつながり

ハムや揚げ春巻きは、どの家庭のテトの食卓にも並びます。

特に丸く切られたハムは、人間関係の円満を象徴します。

切り分けやすく、客人にも振る舞いやすい料理であることも、テトらしさのひとつです。


漬物(ズア・ハイン)

バランスと調和

肉料理が多いテトの食卓には、必ず漬物が添えられます。

これは味の調整だけでなく、陰陽のバランスを取るという東洋的な考え方に基づいています。

豊かさの中にも節度を忘れない——それもまた、テトの哲学です。


五果盛り(マム・グー・クア)

言葉のいらない新年の祈り

テトの食卓と並んで欠かせないのが、五果盛りです。

五種類の果物を供えることで、健康・平安・繁栄などの願いを表します。

地域によって果物の種類は異なりますが、共通しているのは意味を大切にする姿勢です。

おせちが一品ずつ意味を説明できる料理だとすれば、五果盛りは「見れば伝わる」祈りだと言えるでしょう。


おせちとテト料理

違いの中にある共通点

日本のおせちは、理性と秩序で組み立てられた新年の料理。

ベトナムのテト料理は、感情と人のぬくもりで満たされた新年の料理。

形は違っても、どちらも新しい一年を大切に迎えたいという気持ちは同じです。


食べることで、思い出す

テトの料理を思い出すとき、私は味よりも光景を思い出します。

家族が集まり、鍋を囲み、忙しくも温かい時間を過ごしていたあの空気。

そして日本でおせちを前にするとき、そこにはまた別の形の「丁寧な新年」があります。

どちらも、食べることを通して「新しい年を、誰とどう迎えるか」を教えてくれる文化なのだと思います。

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ライター

日本での生活経験あり。リンランを生活圏に、文化背景の翻訳と取材サポートを担当。

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