ハノイのビアホイ|ターヒエンだけじゃない、ベトナム人が通う「本当のビアホイ」

2026.04.17
街・スポット

ハノイで「ビアホイ」といえば、ターヒエン通りのビアホイ。そうイメージする日本人も多いはず。

でも、ベトナム人同士で「ビアホイ行こう」と言ったときに、向かう先はターヒエンではありません。バイクで大通り沿いを走り、黄色い看板に赤い文字で「BIA HƠI HÀ NỘI」と書かれた店の前にバイクを停め、入口のステンレス製タップ台の横をすり抜けて、木のテーブルに座る。それがハノイの人たちにとっての「ビアホイ」です。

ハノイのビアホイ屋「Nhà Hàng Thượng Hải」の黄色い看板と赤い提灯


ビアホイ(Bia Hơi)とは何か

ビアホイは、ベトナム語で「Bia(ビール)+ Hơi(蒸気・ガス)」。直訳すると「生ビール」ですが、実際にはもっと具体的な意味で使われています。

ハノイで「ビアホイ」と言えば、ほぼ100%の確率で HABECO TRADING社が製造する「Bia Hơi Hà Nội」 を指します。そしてこのビールを扱っている大衆酒場のことも「ビアホイ」と呼ぶ。つまりビアホイは、飲み物の名前であり、店の業態の名前でもあるわけです。

HABECOのBia Hơi Hà Nộiの樽(ケグ)が積まれている様子

ビアホイの特徴

ビアホイは、一般的な缶ビールや瓶ビールとはまったく違うタイプのビールです。

製法が違う。 長期保存を前提としていないため、殺菌処理をしません。毎朝HABECOの工場からステンレスの樽(ケグ)で各店舗に配送され、その日のうちに売り切る。日本でいう「要冷蔵・賞味期限当日」の生ビールに近い感覚です。

味が違う。 アルコール度数は約3〜4%。缶のBia Hà Nộiが4.5%、Bia Saigonが4%台後半なのに比べて、明らかに軽い。苦味が少なく、炭酸もやわらかい。だから「水のようにスイスイ飲める」と表現する人がいるのは、大げさではなくそのままの感想です。

提供の仕方が違う。 店の入口にあるステンレスのタップ台から、緑がかったガラスのコップに直接注いで出す。グラスが空になるか、テーブルにグラスが足りないと見れば、店員が勝手に持ってきてくれます。

日本の居酒屋と比べると何が近いかというと、しいて言えば「立ち飲み屋」。でも決定的に違うのは、居酒屋は「今日飲みに行こう」と決めて出かける場所ですが、ビアホイは「仕事終わったし寄ってく?」くらいの感覚。

ベトナム人にとっては「bia hơi đi(ビアホイ行こう)」と声をかけて、近くの店にバイクを停めるだけ。日本語でいう「ちょっとコンビニ寄ってく」くらいの軽さです。

ビアホイのタップからグラスに生ビールを注ぐ瞬間(泡が溢れている)


観光客のビアホイと、ベトナム人のビアホイ

日本人がイメージする「ビアホイ」と、ベトナム人が日常的に通う「ビアホイ」は、同じ名前でもまったく違う体験です。

ターヒエン通り(Tạ Hiện)のビアホイ

ハノイ旧市街にあるターヒエン通りは、通称「ビアストリート」「ビアホイ通り」。ガイドブックには必ず載っていて、夜になるとプラスチックの椅子が通りいっぱいに並び、欧米系のバックパッカーや観光客でにぎわいます。

ビアホイは出します。ただし、客層のほとんどは外国人で、価格もローカルの店に比べると高め。店内は大音量の音楽が鳴り、雰囲気はクラブやパブに近い。

旧市街近郊の観光として楽しむ分にはまったく問題ありません。でもそこで飲むビールの味や雰囲気が「ビアホイのすべて」だと思うのは、少しもったいない。

ベトナム人が通うビアホイ

ベトナム人にとってのビアホイは、旧市街の外にあります。

住宅街の大通り沿い、あるいは路地を一本入ったところ。看板には黄色い地に赤い文字で「Bia Hơi Hà Nội」、入口にはステンレスのタップ台がどんと置いてあり、歩道にまではみ出したテーブルには仕事帰りの男性たちが座っている。天井には扇風機が回り、壁にはメニューの看板や名物料理のポスター。エアコンはない店が多い。

お客さんは近所のおじさんたち、仕事着のままの作業員、たまに家族連れ。外国人はほとんどいません。

ハノイのビアホイ屋の店内で仕事帰りにビールを飲む地元客

これが、ハノイの人が「ビアホイ行こう」と言ったときに思い浮かべる風景です。


ローカルのビアホイ屋の楽しみ方

入店から注文まで

ビアホイ屋の入り方は、日本の居酒屋よりずっとシンプルです。

ビアホイの定番つまみ、殻付き茹で落花生(lạc)

空いている席に勝手に座る。何も言わなくても、落花生の小袋やネムチュア(発酵ソーセージ)がテーブルに置かれます。何が出てくるかは店によって違いますが、どれも日本のお通し的な存在ですが、違うのは袋を開けて食べなければ会計には加算されないということ(とはいえ10,000〜40,000ドン程度)。

メニューは基本的にベトナム語のみ。Google翻訳のカメラ機能が活躍する場面です。

ビアホイのメニュー表

メニューの読み方

ビアホイ屋のメニューは、だいたい以下のカテゴリに分かれています。

Các Món Rau(野菜料理)──空心菜炒め(Rau muống xào)、ゴーヤの卵炒め(Mướp đắng xào trứng)など。50K〜80K(約300〜480円)。ビアホイ屋の野菜料理は量が多くて安い。

Các Món Nộm・Salat(和え物・サラダ)──パパイヤの和え物やトマトサラダ。70K〜120K。

Đồ Khô(焼き物・乾き物)──イカ焼き、チャーニャイ(カエルのつみれ揚げ)、チャートム(海老すり身揚げ)。80K〜120K。このカテゴリがビアのつまみの主力です。

Lẩu・Om(鍋物)──カエル鍋、魚鍋、ヤギ鍋など。350K〜600K。2人以上なら鍋を1つ頼んで、あとはつまみを数品、というのがベトナム人の定番の頼み方です。

Cơm・Canh(ごはん・スープ)──チャーハン(Cơm rang)や各種スープ。しめに頼む人もいます。

実際にビアホイ屋で頼んでみた

ビアホイ屋のつまみは、日本の居酒屋のように「何を食べるか」で選ぶものとは少し違います。ベトナム人にとって、ビアホイの主役はビールと会話。料理はあくまで「長く座っていられるための口実」です。だから注文も気楽で、何品も頼むというよりは、ビールに合う2〜3品をテーブルの真ん中に置いて、みんなでつまむスタイルが基本です。

この黄色い看板の「BIA HƠI HÀ NỘI」。チェーン店っぽく見えますが、決まったメニューはなく、同じ看板でも店舗によって提供されるメニューは全く異なります。

① カエルのレモングラス炒め(Ếch xào sả ớt / エック・サオ・サー・オッ) ビアホイ屋では定番中の定番。カエルの身をレモングラスと唐辛子で炒めた料理で、鶏肉に似た食感ですが、もう少し弾力がある。ビールとの相性は抜群。見た目にインパクトはあるけれど、味は日本人の口にも合います。食べ終わると、小さなカエルの手の骨が皿に残る──これがビアホイの風景です。

カエルのレモングラス唐辛子炒め(Ếch xào sả ớt)

② 焼きアヒル(Vịt nướng / ヴィット・ヌォン) 丸ごとか半身を炭火で焼き、ゴマを振りかけてバジルを添えた料理。皮はパリパリで、中はジューシー。日本の焼き鳥の延長線上にある味なので、初めてでも食べやすい。半身で200,000ドン(約1,190円)。ビアホイ屋の中ではちょっとした「ごちそう」ポジションです。

焼きアヒル(Vịt nướng)胡麻がけ、バジル添え

③ ゴーヤの卵炒め(Mướp đắng xào trứng / ムォップ・ダン・サオ・チュン) 日本のゴーヤチャンプルーに似た料理。薄切りのゴーヤと卵を炒めたシンプルな一品で、苦味と卵のまろやかさがビアホイの軽い味とよく合います。70,000ドン(約420円)。

ゴーヤの卵炒め(Mướp đắng xào trứng)

④ 空心菜のニンニク炒め(Rau muống xào tỏi) ビアホイに限らず、ベトナムの食卓で最もよく見る野菜料理。シャキシャキの空心菜をたっぷりのニンニクで強火で炒めたもの。50,000ドン(約300円)前後。何を頼むか迷ったら、とりあえずこれとビアホイがあれば間違いない。


実際の会計を公開|2人で475,000ドン(約2,830円)

ローカルのビアホイ屋がどれだけ安いか、実際のレシートで見てみます。

ビアホイ屋のレシート(合計475,000ドン)

品目 数量 単価(VND) 小計(VND) 日本円(約)
Ếch xào sả ớt(カエル炒め) 1 135,000 135,000 804円
Vịt nướng 1/2(焼きアヒル半身) 1 200,000 200,000 1,190円
Mướp đắng xào trứng(ゴーヤ卵炒め) 1 70,000 70,000 417円
Lạc(落花生) 1 10,000 10,000 60円
Bia hơi(ビアホイ) 4杯 15,000 60,000 357円
合計 475,000 約2,830円

2人でカエル、焼きアヒル半身、ゴーヤ炒め、落花生、ビール4杯飲んで、合計475,000ドン(約2,830円)

ビアホイ1杯が15,000ドン(約89円)。日本の居酒屋で生ビール1杯500円として、同じ金額で5〜6杯飲める計算です。料理もこれだけ頼んで3,000円いかない。これが「世界一安いビール」と呼ばれる理由。


ビアホイ屋の風景──タップ台・扇風機・祭壇

ローカルのビアホイ屋には、どの店にもだいたい共通する風景があります。

入口のタップ台。 ステンレス製の大きなサーバーが店の入口に置いてあり、その上に洗ったガラスのコップが山積み。注文が入ると、店員がこのタップからビアホイを注ぐ。

天井の扇風機。 エアコンがある店もありますが、多くのビアホイ屋は扇風機だけ。天井から回る緑色の扇風機は、ビアホイ屋のアイコンのような存在です。

壁の祭壇。 ベトナムでは飲食店に限らず、店舗には必ずと言っていいほど小さな祭壇があります。ビアホイ屋も例外ではなく、壁の高い位置に祭壇が設置され、線香が焚かれています。

歩道のテーブル。 店内に入りきらない客のために、歩道にテーブルと椅子を並べるのが当たり前。歩道と店内の境界がほぼない状態で、バイクが横を通り抜けていく。これがハノイのビアホイ屋の「普通」です。

店員の「目で察する」サービス。 ビアホイ屋の店員は、声をかけなくてもテーブルの状況を見て動きます。グラスが残り少なければ勝手にビアホイを持って来る。料理の皿が空になれば下げに来る。「すみませーん」と手を挙げる必要がほとんどない。日本の居酒屋のような丁寧な接客ではなく、長年の習慣で成り立つ「暗黙の了解」に近い。ベトナム人の友人はこれを「dịch vụ bằng mắt(目のサービス)」と呼んでいました。

歩道に並ぶビアホイ屋のテーブルを上から見た風景(赤青プラ椅子・地元客)


ビアホイはなぜこんなに安いのか

ビアホイ1杯15,000ドン(約89円)。缶ビール1本が10,000〜15,000ドンの国で、なぜ生ビールがこの価格で出せるのか。

理由はシンプルです。コストがかかる工程をすべて省いているからです。

殺菌処理をしない。瓶詰めも缶詰めもしない。ラベルも貼らない。長期保管用の倉庫も不要。HABECO社の工場から毎朝ステンレスの樽で配送し、その日のうちに売り切る。樽は回収して再利用する。

つまり、製造コストの中でビールの「液体」以外にかかる費用を極限まで削っている。だからこの価格が成り立つ。逆に言えば、殺菌していないので翌日に持ち越すことはできない。売れ残ったら廃棄です。


ビアホイ屋が一番盛り上がる夜──サッカーの試合がある日

ビアホイ屋が普段の何倍もにぎわう瞬間があります。ベトナム代表のサッカーの試合がある夜です。

どの店もテレビやプロジェクターを出して試合を流し、歩道のテーブルは満席。仕事帰りに1人で来るようなおじさんたちも、この日ばかりはグループで集まります。ゴールが決まれば店中が歓声に包まれ、知らない人同士でグラスをぶつけ合う。

ビアホイが1杯15,000ドンだからこそ、この「歩道のスポーツバー」が成り立つ。もし1杯500円だったら、こうはならない。安くて、近所にあって、誰でも気軽に座れるからこそ、ビアホイ屋はハノイの「街角のスタジアム」になる。サッカーとビアホイの組み合わせは、ベトナムの都市文化そのものです。


ホーチミンにもビアホイはあるのか──南北で違うビール文化

ビアホイはハノイを中心とした北部の文化です。

ホーチミン市でも「ビアホイ」の看板を掲げる店はありますが、数は圧倒的に少ない。南部では缶ビールや瓶ビールに氷を入れて飲むスタイルが主流で、Bia SaigonやTigerが定番。「タップから注ぐ生ビール」という文化自体が、ホーチミンではあまり根付いていません。

ベトナム在住の日本人の間でも、「ビアホイはハノイの特権」という言い方をする人がいます。住んでみると、その意味がわかります。ハノイの街を歩けば、100メートルおきにビアホイの看板を見かける。そのくらい、ビアホイはこの街の日常に溶け込んでいます。


ビアホイ屋を見つける方法

旅行者がローカルのビアホイ屋を見つける一番簡単な方法は、Google Mapで「Bia hơi」と検索することです。ハノイ市内なら無数にヒットします。

見つけたら、以下のポイントをチェック。

黄色い看板に「BIA HƠI HÀ NỘI」の文字があるか。 これがあればHABECOのビアホイを扱っている店です。入口にステンレスのタップ台があれば確実。

地元の人が座っているか。 観光客ばかりの店は値段が高い可能性あり。仕事着のおじさんたちが普通に飲んでいる店を選べば、まず外しません。

メニューがベトナム語だけでも臆さない。 Google翻訳のカメラ機能で乗り切れます。それでもわからなければ、隣のテーブルに並んでいる料理を指差せばいい。ベトナム人は、外国人が自分たちと同じ店に来ることを基本的に歓迎してくれます。


よくある質問(FAQ)

ビアホイとは何ですか?

ビアホイ(Bia Hơi)は、ベトナムの生ビールの一種です。HABECO社が製造する「Bia Hơi Hà Nội」が代表的な銘柄で、殺菌処理をしない当日醸造のビールをタップから直接グラスに注いで提供します。アルコール度数は約3〜4%と低く、軽い飲み口が特徴。また、このビールを扱う大衆酒場のことも「ビアホイ」と呼びます。

ビアホイの値段はいくらですか?

ローカルのビアホイ屋では、1杯あたり10,000〜15,000ドン(約60〜89円)が相場です(2026年4月時点)。観光客向けのターヒエン通りでは20,000〜30,000ドン程度になることもあります。

ビアホイはどこで飲めますか?

ハノイ市内なら、大通り沿いから路地裏まであちこちにビアホイ屋があります。黄色い看板に赤い文字で「BIA HƠI HÀ NỘI」と書かれた店を探すか、Google Mapで「Bia hơi」と検索するのが最も簡単です。

ビアホイとビールの違いは何ですか?

ビアホイは殺菌処理をしない生ビールで、製造当日に消費することを前提としています。缶や瓶のビールに比べてアルコール度数が低く(3〜4%)、味が軽い。保存がきかないため、毎朝工場から樽で配送されます。

ターヒエン通りのビアホイは「本物」ですか?

ターヒエン通りでも本物のビアホイは飲めます。ただし、客層がほとんど外国人で、価格もローカル店の2倍近いことがあります。ベトナム人が日常的に通う「ビアホイ文化」を体験したいなら、旧市街の外にあるローカルのビアホイ屋を訪れることをおすすめします。

お腹は壊しませんか?

ビアホイ自体でお腹を壊すことは少ないですが、氷の品質は店によって差があります。ローカルの大きな店であれば工業用の浄水氷を使っていることがほとんどなので、基本的には問題ありません。心配な場合は氷なし(không đá / コン・ダー)で注文できます。

クレジットカードは使えますか?

クレジットカードは使えません。現金のみです。

この記事は役に立ちましたか?
もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。
エンジニア

幼少期をアメリカで過ごし、現在は世界を転々としながらコードを書くノマドエンジニア。

関連記事

目次