ベトナムの揚げ春巻き(ネムラン)の皮・具材・タレ・食べ方を解説

2026.03.09

ベトナム料理で最初に何を食べるべきか聞かれたら、私はたぶん「揚げ春巻き」と答える。

ベトナムの揚げ春巻き(ネムラン/チャーゾー)は、ライスペーパーで肉や春雨などの具材を包み、油でカリッと揚げた、ベトナムの定番家庭料理だ。 生野菜とヌクマム(魚醤ベースのタレ)と一緒に食べるのが基本で、一口で「揚げ物のコク」「野菜のさっぱり感」「タレの甘酸っぱさ」が全部くる。

ベトナム人にとってこの料理は、普段の食卓にもテト(旧正月)にも出てくる、もっとも身近な「ちゃんとした料理」だ。家庭の味であり、食堂の定番であり、ビール居酒屋のつまみでもある。

ちなみに、この料理の名前はベトナム北部と南部で違う。北部ではネムラン(nem rán)、南部ではチャーゾー(chả giò)。どちらも同じ料理を指す。この記事では北部在住者の視点で「ネムラン」を使うが、南部の呼び方や地域差についても詳しく触れていく。


ベトナムの揚げ春巻きとは?──名前が2つある理由

ベトナムの揚げ春巻きには、ネムラン(nem rán)とチャーゾー(chả giò)という2つの名前がある。同じ料理なのに呼び方が違うのは、地域の違いによるものだ。

ネムラン(nem rán) ──北部、特にハノイで一般的な呼び方。「rán」は「油で揚げる」という意味で、文字通り「揚げたネム」。北部では「nem」は春巻き全般を指す言葉として使われている。

チャーゾー(chả giò) ──南部、特にホーチミンで一般的な呼び方。「chả」はひき肉を使った料理、「giò」は細長く巻いた形を表す。

どちらの名前で呼んでもベトナムでは問題なく通じる。ただし、日本のベトナム料理店では「チャーゾー」の方をよく見かける。これは日本でレストランを経営するベトナム人に南部出身者が多いためだ。

英語では「Vietnamese fried spring rolls」と訳されることが多い。日本語の「生春巻き(ゴイクオン)」とは別の料理なので、注意が必要。

旅行中は、ハノイのメニューでは「nem rán」、ホーチミンでは「chả giò」と書かれていることが多い。どちらを見ても同じ揚げ春巻きのことだと知っていれば、注文で迷わない。


ベトナムの揚げ春巻きの中身──具材が生む味のバランス

ネムランのおいしさの核は、中の具材にある。一つの食材ではなく、複数の素材がそれぞれ役割を持ちながら組み合わさることで、独特の味わいが生まれる。

基本の具材

豚ひき肉 ──旨味の中心。赤身と適度な脂身が混ざった肉を使うのがポイントで、赤身だけだと揚げたときにパサつく。揚げることで自然な甘みと旨味が出る。

春雨(miến) ──水で戻して短く切り、具材に混ぜる。揚げるとやわらかく少し弾力のある食感になり、具材全体をまとめる役割を果たす。これがないとバラバラになりやすい。

きくらげ ──乾燥きくらげを水で戻して細かく刻む。コリコリとした歯ごたえが加わり、食感にアクセントが生まれる。

野菜 ──にんじん(自然な甘みと彩り)、玉ねぎやエシャロット(揚げると香ばしい香り)が定番。

──量は少ないが、具材をまとめて形を保つために重要。卵なしだと巻くときに具材がばらけやすい。

地域で変わる具材

ベトナムは南北に長い国なので、同じ揚げ春巻きでも地域ごとに具材が少しずつ違う。

北部(ハノイ) ──豚ひき肉、春雨、きくらげ、にんじん、玉ねぎ、卵。シンプルで素材のバランスを重視する。味わいは比較的あっさり。

中部 ──基本は同じだが、サイズが北部より小ぶりでコンパクト。胡椒や調味料をやや強めにするのが中部の好み。海に近い地域ではエビを加えることも。

南部(ホーチミン) ──北部の基本に加えて、エビ、カニの身、タロイモなどを入れることがある。特にタロイモは南部チャーゾーの特徴的な食材で、揚げるとホクホクした食感とほのかな甘みが出る。具材の種類が多いぶん、北部より風味が豊かでコクがある。

バリエーション

伝統的な豚肉のネムラン以外にも、現在ではさまざまな種類がある。

シーフードネム ──エビやイカを具材にした軽やかな味わい。カニ入りネム(nem cua bể)は特に北部で有名。

ベジタリアンネム(nem chay) ──春雨、きのこ、きくらげ、にんじん、豆腐などで作る。肉なしでも巻いてカリッと揚げれば十分おいしい。精進料理のレストランで人気。


揚げ春巻きの皮──ライスペーパーとメッシュ状の皮の違い

ネムランの皮はライスペーパー(bánh tráng)。米粉と水、少量の塩から作る、ベトナム料理を代表する食材だ。

ライスペーパーの種類

実はライスペーパーは一種類ではない。厚さや用途によっていくつかの種類がある。

普通のライスペーパー(薄手) ──ネムランに最もよく使われる。揚げると軽くてパリッとした食感になる。北部の家庭料理やテトのネムで一般的。

厚めのライスペーパー ──弾力があり破れにくい。主に生春巻きなど生で食べる巻き料理向け。

網目状のライスペーパー(bánh tráng mắt lưới) ──表面に細かい穴がたくさん開いた、網のような見た目の皮。これが日本人が検索する「メッシュ」の正体。普通のライスペーパーで巻いたネムの外側をさらにこの網目状ライスペーパーで包んでから揚げると、非常にカリッとした食感と美しい見た目になる。中部〜南部で特に使われる。

淡い黄色のライスペーパー ──地域によっては「ラム(ram)」と呼ばれる。製法で自然に黄色くなるか、少量の砂糖を加えて作る。揚げると美しい黄金色に仕上がる。

なぜネムランの皮はカリカリになるのか

カリッと仕上がる理由は主に3つ。薄いライスペーパーを使うこと、適切な温度(160〜170℃)で揚げること、そして二度揚げの技法。最初に中火で火を通し、食べる直前に高温で短時間揚げ直すと、皮がさらにカリッとする。


ベトナムの揚げ春巻きのタレ──ヌクマムだれの作り方と地域差

ネムランの味を完成させるのが、ヌクマムだれ(nước chấm)だ。ベトナム人にとって、ネムランとこのタレは切り離せない組み合わせ。

基本の作り方

材料はシンプル。ヌクマム(魚醤)、水、砂糖、レモン汁(または酢)、みじん切りのニンニク、生の唐辛子

ヌクマムに水と砂糖を加えて塩味と甘味のバランスを整え、レモン汁で酸味を出し、ニンニクと唐辛子で香りと辛さを加える。おいしいタレは塩味・甘味・酸味・辛味の4つのバランスが取れている。

家庭ごとに微妙にレシピが違うのもベトナムらしいところで、砂糖の量やニンニクの加減に「うちの味」がある。

さらに、細切りの青パパイヤやにんじんをタレに入れることもある。軽く漬かってシャキシャキした食感になり、見た目も味も良くなる。

地域ごとのタレの違い

北部 ──水の割合がやや多く、塩味は穏やか。青パパイヤやにんじんを入れることも多い。さっぱりしていてネムランや生野菜との相性がいい。

中部 ──塩味がはっきりしていて唐辛子も多め。ヌクマムをあまり薄めずに使うことも。小ぶりでカリッとした中部のネムによく合う。

南部 ──甘味がやや強い。砂糖を多めに入れるため、甘酸っぱくて食べやすい。にんじんや青パパイヤの漬物がたくさん入っていることも多い。


揚げ春巻きの食べ方──そのまま食べるのはもったいない

ネムランの食べ方は、そのままタレにつけるだけじゃない。ベトナム人の食べ方を知ると、この料理の楽しみ方が一気に広がる。

生野菜と一緒に包んで食べる

もっとも一般的な食べ方。テーブルにはレタス、パクチー、ミント、シソ、バジル(ケンギョイ)、きゅうりなど、大量の生野菜が盛られた皿が出てくる。

レタスを一枚手に取り、香草とネムランをのせて軽く包み、ヌクマムだれにつけて食べる。揚げ物のコクを野菜がさっぱりと中和してくれるので、何本食べても重くならない。外国人がまず驚くのは、この野菜の量の多さだ。

ブン(米麺)と一緒に食べる

ネムランはブン(ベトナムの米麺)と合わせて食べることもとても多い。器にブン、生野菜、ネムランを入れて、ヌクマムだれをかけて混ぜて食べる。これは「ブン・ネム(bún nem)」と呼ばれ、ベトナムの食堂ではランチの定番メニューの一つ。

やわらかいブンの麺とカリッとしたネムの食感の対比が楽しい。

そのまま+タレ

もちろん、揚げたてのネムをそのままタレにつけて食べるだけでも十分おいしい。ビール居酒屋(クアンニャウ)では、テーブルの中央にネムランを置いてみんなでシェアするのが定番。カリッとした食感と香ばしさは、ビールとの相性も抜群。


巻き方・揚げ方のコツ──くっつかない、カリッと仕上げる

自宅でネムランを作ろうとすると、「ライスペーパーがくっつく」「カリッと揚がらない」という壁にぶつかる人が多い。ベトナムの家庭で実践されているコツをまとめる。

巻き方のコツ

ライスペーパーを濡らしすぎない。 ネムラン用の薄いライスペーパーは、水にどっぷり浸す必要はない。少し硬い場合は、手で表面に薄く水を塗るか、湿らせた布の上に数秒置く程度でいい。濡らしすぎると巻くときにくっつき、揚げたときに破れる原因になる。

具材の水分を切る。 春雨はしっかり水気を切る。にんじんや玉ねぎも、切ったあと軽く水分を絞ってから使う。具材が水っぽいとライスペーパーが破れやすくなる。

巻く強さはほどほどに。 きつすぎると揚げたときに皮が割れる。ゆるすぎると形が崩れる。小さく均一な円筒形になるのが理想。

揚げ方のコツ

巻いたら10〜15分休ませる。 すぐ揚げず、少し置いてライスペーパーの表面を乾かすと、破れにくく、油の中で破裂しにくくなる。

油の温度は160〜170℃。 低すぎると油を吸ってベチャっとなり、高すぎると焦げる。小さなネムを一つ入れて、周りに細かい泡が均等に出てくればちょうどいい温度。

一度にたくさん入れない。 油の温度が下がり、ネム同士がくっつく原因になる。少量ずつ揚げるのが鉄則。

二度揚げでさらにカリカリに。 一回目は中火で火を通し、取り出して冷ます。二回目は高温で短時間揚げて、皮をカリカリに仕上げる。ベトナムの家庭でよく使われるテクニック。

裏技: 巻く前にライスペーパーに少量の酢入りの水を塗る、またはライスペーパーを柔らかくする水に少量のビールを混ぜると、揚げたときに皮がよりカリッとして色も美しくなる。


ネムランにまつわる記憶

ベトナム人にとって、ネムランは家族の記憶と結びついた料理だ。

私が初めてネムを作ったのは、家の台所で母に教えてもらったとき。材料をテーブルに並べ、巻き方を見せてもらい、自分で挑戦した。最初のネムは不格好で、ゆるかったり、きつく巻きすぎたり。でも母は笑いながら「誰でも最初はこんなものよ」と言ってくれた。

実は私の家では両親がライスペーパーを作って販売している。だから家のネムには自家製のライスペーパーが使われていて、とても柔らかく、水に浸さなくてもそのまま巻ける。母から学んだ一番大事なコツは、野菜の水分をしっかり絞ること。これだけで仕上がりがまったく違う。

ネムを揚げるときのジュワーッという音と、台所に広がる香ばしい香り。子どもの頃は母が揚げているのを横で見ながら、揚げたてを1本もらって食べるのが楽しみだった。あの香りも、ネムランの記憶の一部になっている。

テトの時期には、多くの家庭で家族総出でネムを作る。大量の具材を準備して、みんなで巻いて、揚げる。この作業自体が家族のイベントのようなもので、ネムランがベトナム人にとって特別な料理である理由の一つだ。


好みべつ──あなたに合う揚げ春巻きの楽しみ方

シンプルに味わいたいなら → 屋台や食堂で伝統的なネムランを注文。揚げたてをヌクマムだれにつけて、生野菜と一緒に。まずはこれが基本。

しっかり食事にしたいなら → ブン・ネム(米麺+揚げ春巻き)を注文。ランチにぴったりの一品で、ベトナムの食堂ならどこにでもある。

いろいろ試したいなら → シーフードネム、カニ入りネム、ベジタリアンネムなど、バリエーションが豊富なレストランへ。南部スタイルのタロイモ入りチャーゾーも、北部とは違った味わいで面白い。

自宅で作りたいなら → ライスペーパーは日本のアジア食材店やネット通販で手に入る。メッシュ状の皮(bánh tráng mắt lưới)も探せば見つかる。具材は豚ひき肉・春雨・きくらげ・にんじんがあれば基本形は作れる。


FAQ

Q. ベトナムの揚げ春巻きと生春巻きはどう違う? 揚げ春巻き(ネムラン)はライスペーパーで具材を包んで油で揚げた料理。生春巻き(ゴイクオン)は、ゆでたエビや野菜、米麺などをライスペーパーで包み、揚げずにそのまま食べる。皮も食感もタレもまったく違う別料理。

Q. 「ネムラン」と「チャーゾー」どっちが正しい? どちらも正しい。北部では「ネムラン(nem rán)」、南部では「チャーゾー(chả giò)」と呼ぶ。同じ料理の地域別の呼び方。日本のベトナム料理店では南部出身者が多いため「チャーゾー」をよく見かける。

Q. ハノイで揚げ春巻きはいくらくらい? 食堂でブン・ネム(米麺+揚げ春巻き)を頼むと35,000〜60,000ドン(約210〜360円)前後。単品で揚げ春巻きだけ注文すると30,000〜50,000ドン程度が目安。

Q. 揚げ春巻きのカロリーは? 大きさや具材によるが、一般的なネムラン1本あたりおおよそ80〜120kcal程度。生野菜と一緒に食べることで、揚げ物でもバランスが取りやすい。

Q. ライスペーパーの「メッシュ」って何? 網目状のライスペーパー(bánh tráng mắt lưới)のこと。表面に細かい穴が開いた網のような皮で、普通のライスペーパーで巻いたネムの外側をさらに包んで揚げると、非常にカリカリの食感になる。

Q. 揚げ春巻きを英語でなんと言う? 「Vietnamese fried spring rolls」が一般的。「spring rolls」だけだと生春巻きと混同されることがあるので「fried」をつけるのがポイント。

Q. 揚げ春巻きがくっつくのはなぜ? ライスペーパーを濡らしすぎている、具材に水分が多すぎる、揚げるときに一度にたくさん入れている、のいずれかが原因。詳しくは「巻き方・揚げ方のコツ」セクションを参照。

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ライター

日本での生活経験あり。リンランを生活圏に、文化背景の翻訳と取材サポートを担当。

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