ハノイは、チェーの名店が集まる街だ。旧市街の小さな通りを歩いているだけで、道ばたの屋台や長年続く専門店を簡単に見つけられる。小さなテーブルと椅子を並べただけのチェー屋があちこちにあり、チェーがいかにハノイの日常に溶け込んでいるかがわかる。
この記事では、旧市街の老舗から路地裏の屋台、地元の人が通う旧市街の外の名店まで、在住者の視点で「何を食べたいか」から選べるように紹介する。チェーそのものの種類や食べ方は、総論の記事にまとめている。
ハノイのチェーの特徴──北部の「上品な甘さ」と季節の楽しみ

ハノイのチェーを一言で言うなら、甘さ控えめで素朴、そして季節感を大切にする味わいだ。ベトナムの中でも北部の人は、甘すぎない自然な甘さを好む。ホーチミンのような濃厚なココナッツミルクではなく、素材そのものの味を生かすのがハノイ流だ。
北部の伝統的なチェーの大きな特徴が、文旦の花(hoa bưởi)やジャスミンの花を移した自然な香りだ。一口食べると花の香りがふんわり広がり、とても上品な後味になる。使われる食材も、蓮の実、コム(cốm=若いもち米)、緑豆、黒豆など素朴なものが中心で、トッピングには仙草ゼリー(tào phớ/thạch đen)やココナッツゼリーがよく合わせられる。
そしてハノイのチェーは、季節でがらりと変わる。夏は黒豆チェーや、蓮の実とリュウガンのチェーなど、体を冷やすさっぱりしたものが人気。冬になると、団子入りの温かい「チェー・バーコット」、ごま餡を包んだ団子の「スイディン」、温かいキャッサバチェーなど、体を芯から温めるチェーが恋しくなる。四季があるハノイだからこそ、夏と冬でまったく違うチェーを楽しめる。
ハノイ在住者としてひとつ伝えておきたいのは、ベトナム人は「有名だから」でチェーを選ばないということ。選ぶのは「今日食べたいチェー」の方で、その一杯を出してくれる馴染みの店に通う。クックバックが食べたい日はクックバックの店へ、ミックスチェーの気分なら古くからのチェー屋へ。この記事も、ぜひ「何を食べたいか」から選んでみてほしい。
旧市街で食べる──観光のついでに寄れる老舗
旧市街のチェー屋は、ハノイ観光のついでに気軽に寄れるのが魅力。歴史のある老舗が多く、「ハノイらしい素朴なチェー」を味わいたい人には一番わかりやすい選択肢だ。
Xôi Chè Bà Thìn(ソイ・チェー・バー・ティン)/おこわとチェーの老舗

住所:01 Bát Đàn, Hoàn Kiếm (地図)/ 営業時間:8:15〜23:00(毎日)/ 価格:25,000〜30,000ドン(約150〜180円)
ハノイでもっとも有名なチェー屋の一つで、何世代にもわたって愛されてきた老舗。今どきの新しいチェーが次々生まれるなかでも、この店は昔ながらの伝統素材を守り続けている。黒豆チェー、緑豆チェー、蓮の実チェー、しょうがの効いた「チェー・バーコット(chè bà cốt)」、そして文旦の花の香りをまとった「チェー・ホアカウ(chè hoa cau)」など、多くのハノイっ子の記憶に刻まれた味が揃う。看板のおこわ(ソイ)とチェーの組み合わせは甘さ控えめで、もちもちのおこわと一緒に食べるのがここの楽しみ方だ。
Chè Bốn Mùa(チェー・ボン・ムア)/四季のチェーが揃う人気店

住所:4 Hàng Cân, Hoàn Kiếm(Hoàng Hoa Thám通り643にも支店)(地図)/ 営業時間:9:30〜23:00(毎日)/ 価格:20,000〜35,000ドン(約120〜210円)
ハノイでおいしいチェーといえば必ず名前が挙がる人気店。名前の通り、季節に合わせたチェーを提供している。特徴は上品で清らかな甘さで、いくら食べても飽きがこないと評判だ。伝統的なチェーがひと通り揃うなかでも、緑豆ベースの温かいお汁粉「ルック・タオ・サー(Lục Tào Xá)」と、団子入りの甘いスープ「バイン・チョイ・タウ(bánh trôi Tàu)」の2品がこの店の看板。旅行者に人気の旧市街にありながら、常に地元の人でにぎわう、一年中通える店だ。
Chè Hương Hải(チェー・フン・ハイ)/メニュー豊富な旧市街の定番

住所:93 P. Hàng Bạc, Phố cổ Hà Nội, Hoàn Kiếm, Hà Nội (地図)/ 営業時間:8:00〜翌0:00(毎日)/ 価格:25,000〜50,000ドン(約150〜300円)
豊富なメニューが特徴のチェー屋。伝統的なチェーから現代風にアレンジされたチェーまで幅広く揃い、緑豆チェー、蓮の実チェー、ミックスチェーなど多彩な味を一度に楽しめる。チェーだけでなくバインミーや軽食、各種ドリンクも提供していて、甘味から食事まで一度に済ませられる。庶民的で入りやすく、旧市街を訪れる観光客にも地元の人にも定番の立ち寄りスポットだ。
Chè Dung 95 Hàng Bạc(チェー・ズン)/伝統から現代まで揃う旧市街の名店

住所:95 Hàng Bạc, Hoàn Kiếm (地図)/ 営業時間:8:30〜23:30(毎日)/ 価格:25,000〜45,000ドン(約150〜270円)
ハンバック通り(Hàng Bạc)にある、北部らしい落ち着いた雰囲気のチェー専門店。古典的なチェーから現代的なチェーまで幅広く揃い、四季を通じてどんな好みにも応えてくれる。看板は、アイスとおこわを合わせた「ケム・ソイ・チェー(kem xôi chè)」や、マンゴーにココナッツクリームをかけた「チェー・ソアイ・ケムズア(chè xoài kem dừa)」。ほかにも豆腐花(タオフー、tàu hũ)系のデザートが豊富に揃い、甘いもの好きが一度でいろいろ試せるのが魅力だ。ホアンキエム湖からすぐで観光の合間に寄りやすい。
フルーツ系・専門店で選ぶなら
フルーツたっぷりの「ホア・クア・ザム(hoa quả dầm)」が食べたいなら、旧市街・Tô Tịch通り17番地のHoa Béo(ホア・ベオ)(地図)が定番。南国フルーツと練乳、クラッシュアイスを混ぜて食べるスタイルで、旅行者にも人気が高い。さらに、大きな房のままのドリアン(sầu riêng)も看板で、ドリアン好きなら見逃せない一皿だ。価格の目安は35,000〜200,000ドン(約210〜1,230円)。看板のかき氷「ビンス(kem đá tuyết)」は70,000ドン(約430円)ほど。冷房のきいた席(AIR-CONDITIONED ROOM)もあるので、暑い日でもゆっくり食べられる。

若い世代に人気のChè Xoan Quán 29(チェー・ソアン・クアン)(地図)(旧市街・Hàng Giấy通り29)は、プリン(カラメン、caramen)をはじめとした現代風のチェーが得意な店。今どきのアレンジを試したいなら向いている。価格の目安は25,000〜35,000ドン(約150〜210円)。

世界中のガイドブックに載るLittle Bowl(地図)(ホアンキエム湖の北側)は外国人観光客に人気の専門店。プリンにアイスをのせた「カラメン・ケム」、アイス入りのチェー、ジャックフルーツ入りヨーグルト(スアチュア・ミット、sữa chua mít)などが名物で、清潔な店内で安心して食べられる。価格の目安は30,000〜40,000ドン(約180〜240円)。支払いは現金のみ(カードやQR決済用の端末〔POS〕を置いていない)なので、小額のドン紙幣を用意しておきたい。

落ち着いた雰囲気で味わいたいなら、旧市街・Hàng Điếu通りの古民家を改装した専門店Lộc Tài House(ロックタイハウス)(地図)もおすすめだ。営業は毎日11:00〜22:30、価格の目安は25,000〜60,000ドン(約150〜370円)。
旧市街の屋台・路地裏──飾らない「ハノイのチェー」
ハノイの本当のチェー体験は、名前のない小さな屋台にあると思う。住宅街や市場の中、路地の入り口に、小さなテーブルと椅子を並べただけの店。ここで食べる黒豆チェーや緑豆チェーは、飾り気がないぶん、昔からベトナム人が食べてきたそのままの味を感じられる。
夕方になって涼しくなると、チェー屋はだんだんお客さんでにぎわう。ベトナム人だけでなく外国人も多く、小さな椅子に並んで座り、スプーンが器に当たる音とココナッツミルクの甘い香りが広がる。にぎやかだけど、どこか温かい雰囲気がある。
旧市街の外で食べる──地元の人が通う店(地区別)
ハノイ在住者の日常に一番近いチェーは、実は旧市街の外にある。住宅街や学生街の小さな店こそ、「有名だから選ぶ」のではなく「好きな一杯を食べたいから通う」ベトナム式のチェー文化が生きている場所だ。
Chè Nhà Suvy(チェー・ニャー・スヴィ)/クックバック好きに


住所:33 Quang Trung, Hoàn Kiếm(旧市街から徒歩15分ほど)(地図)/ 営業時間:11:00〜22:00(毎日)/ 価格:25,000〜35,000ドン(約150〜210円)
クックバック(ミルクゼリー状のデザート)で名前が知られた店。青い陶器の器に盛られる、ふわふわのクックバック、アーモンドスライス、ロンガン、控えめなシロップが絶妙のバランス。クックバック目当てに遠くから通う人も多い、ハノイのクックバック愛好家にとっての基準となる一軒だ。
Chè Thập Cẩm Cũ 1976(チェー・タップカム・クー・1976)/1976年創業の老舗

住所:72G Trần Hưng Đạo, Hoàn Kiếm(ホアンキエム湖から徒歩圏内、路地の奥)(地図)/ 営業時間:9:30〜22:30(毎日)/ 価格:70,000〜100,000ドン(約430〜610円)
半世紀にわたり味を守り続ける、昔ながらのハノイの味を残す老舗。器はふつうのチェー屋より少し大きめで、蓮の実チェー(chè sen)、豆のチェー(chè đậu)、文旦(bưởi)、とうもろこし(ngô)など、素朴で伝統的な品が中心だ。一杯70,000〜100,000ドンとハノイのチェーとしてはかなり高めだが、それでも連日客が絶えない。
Chè Chang Hi(チェー・チャン・ヒ)/現代フルーツチェーの人気チェーン
住所:ハノイ市内に複数店舗(代表店:113 Xã Đàn, Đống Đa)(地図)/ 営業時間:10:00〜22:00(毎日)
フルーツとトッピングをたっぷり使った、見た目のカラフルな現代チェーが中心。パフェ感覚で楽しめるので、伝統チェーが「やや素朴すぎる」と感じる人や、若い世代、観光客の最初の一杯として入りやすい店だ。
好みべつ・楽しみ方
どこに行くか迷ったら、食べたいものから選ぶのがいい。素朴で懐かしい甘さを味わいたいなら、旧市街の老舗(Bà Thìn、Bốn Mùa)や路地裏の屋台へ。クックバックやフルーツ系の現代チェーが気分なら、Nhà Suvy や Chang Hi へ。ドリアンに挑戦したいなら Hoa Béo へ、ディープなローカル体験なら Khâm Thiên の路地奥へ。
一度は道ばたの屋台に座って地元の生活の雰囲気を感じ、もう一度は現代的な専門店で創造的なデザートを楽しむ。どちらもまったく違う魅力がある。時間があるなら、観光ルートから一歩外れた旧市街の外にも足を伸ばしてみてほしい。
FAQ
Q. ハノイでチェーはいくらくらい?
屋台や路地裏の店なら1杯15,000〜30,000ドン(約90〜180円)前後、専門店やカフェなら30,000〜50,000ドン(約180〜300円)前後が目安。Chè Thập Cẩm Cũ 1976 のような有名店では70,000〜100,000ドンすることもあるが、全体としては手頃な値段で楽しめる。
Q. ハノイの温かいチェーはいつ食べられる?
温かいチェー(チェー・チョイ・ヌオック、チェー・バーコット、温かいキャッサバチェーなど)は、涼しくなる秋〜冬が中心。店によっては冬の一時期しか出さないところもあるので、寒い季節にハノイを訪れたらぜひ探してみてほしい。夏は冷たいチェーが主流だ。
Q. 旧市街と旧市街の外、どっちで食べるべき?
観光のついでに気軽に寄るなら旧市街の老舗(Bốn Mùa、Bà Thìn)。地元の日常のチェーを体験したいなら、Đống Đa 区や Ba Đình 区など旧市街の外の店へ。両方まったく違う雰囲気なので、時間があれば両方試すのがおすすめ。
Q. チェーが初めてでも食べやすい店は?
タイ風チェー(Chè Thái 117 Đội Cấn)やクックバック(Chè Nhà Suvy)、フルーツ系の現代チェー(Chè Chang Hi)は、クセが少なく初めてでも食べやすい。まずはミックスチェー(thập cẩm)を頼めば、いろいろな具材を一度に試せる。