ホイアン旧市街は、かつて国際貿易港として栄えたベトナム中部の世界遺産だ。木造の街並みがほぼ当時のまま残っていて、歩くだけでも楽しい。
ただ、行く前に迷うのはたいていチケットのことになる。要るのか要らないのか、いくらなのか、何か所に入れるのか。この記事は、そこから書く。
ホイアン旧市街の歩き方

最初に結論だけ出す。長い記事なので、これだけ読んで離脱しても困らないように。
| あなたの疑問 | 答え |
|---|---|
| 旧市街に入るのにチケットは必要? | 散策だけなら不要。2023年5月以降、個人旅行者は無料で歩ける。ただし来遠橋(日本橋)・福建会館・古民家などの対象施設に入るにはチケットが必要 |
| チケット料金は? | 外国人1人120,000 VND(約720円)。券種を選ぶ余地はない。現地で見かける80,000 VNDはベトナム国内客の料金 |
| 1枚で何か所に入れる? | 5か所。ただし好きに5つ選べるわけではなく、代表遺跡から1か所、博物館から1か所、残りから3か所という構成が決まっている |
| チケットの有効期間は? | 購入から24時間。1日で使い切る前提で計画したい |
| チケットはどこで買う? | 旧市街の入り口10か所以上にチケットブースあり。一番分かりやすいのは来遠橋(日本橋)の東西両側 |
| 5か所はどう選ぶ? | 目的で決めるのが早い。半日で日本橋の中まで見る、2〜3時間で東側だけ回る、日本との縁をたどる、建築と装飾を見る──の4パターンを本文で示す |
| 所要時間は? | 散策のみなら2時間、チケットで対象施設を巡るなら3〜4時間、食事・買い物込みなら半日〜1日 |
| 一番見るべきは? | 来遠橋(日本橋)。2024年8月に修復が完了した、400年前の橋。ただし関公廟とはどちらか一方しか選べない |
| ベストな訪問時間帯は? | 朝7〜10時(人出が少なく光が柔らかい)または夕方16〜18時(ランタン点灯直前) |
| 昼と夜どっちが見所? | 両方見たい。建築や文化財は昼、街の幻想感は夜。できれば1日泊まって両方を体験する |
以下、この結論の根拠を順に説明していく。
ホイアン旧市街のチケット|120,000ドン券と「5か所」の中身
チケットは、旧市街に入るためのものではない。2023年5月15日以降、散策・食事・買い物・写真撮影が目的の個人旅行者は、チケットなしで旧市街を歩ける。チケットが必要になるのは、日本橋や会館、古民家、博物館といった対象施設に入るときだけだ。団体客は引き続きチケットを求められる。
チケットは120,000ドン。80,000ドンは国内客の料金
現地の案内や他の情報源で80,000 VNDという数字を見かけることがあるが、これはベトナム国内の旅行者に適用される料金だ。2012年から据え置かれている。外国人旅行者の料金は120,000 VND(約720円)で、券種を選ぶ余地はない。日本から行くなら、買うのはこの一種類になる(2026年8月時点)。
120,000ドン券に含まれるもの
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 旧市街の街並みの散策 | 含む |
| 代表遺跡 | 来遠橋(日本橋)か関公廟のどちらか1か所 |
| 博物館 | 博物館の中から1か所 |
| 自由に選べる施設 | 3か所 |
| 入れる施設の合計 | 5か所 |
| 文化・芸術活動 | 5か所とは別に楽しめる |
「5か所」の内訳|自由な5択ではない
チケットで入れるのは、対象施設のうち5か所。ただし、そこから好きに5つを選べるわけではない。券の構成が決まっている。
- 代表遺跡から1か所──来遠橋(日本橋)か、関公廟(クアンコン廟)のどちらか
- 博物館から1か所
- 残りの施設から自由に3か所──会館、古民家、祠堂、集会所など
つまり「日本橋+福建会館+広東会館+潮州会館+海南会館」のような、会館だけで5枠を埋める組み合わせはできない。博物館を1か所は必ず通ることになる。この枠組みを知らずにブースで券を買うと、現地で選び直すことになる。
伝統芸能の公演は、5か所の枠とは別に付く
チケットには、伝統芸能の公演が5か所の枠とは別に付いてくる。民謡と舞踊、古典劇の抜粋を、独奏と合奏で見せるプログラムだ。公演を見ても、施設に入れる5か所は減らない。
上演は毎日10:15/15:15/16:15の3回。公演のほかにも、日本茶道の実演、土鍋割り遊び、民謡の歌唱体験、民族楽器の演奏といった文化・芸術活動が、決まった時間帯に旧市街のあちこちで行われている。これらもチケットの5枠とは別だ。
有効期間は購入から24時間
チケットの有効期間は購入から24時間だ。日をまたいでゆっくり回りたい場合は、その都度買い直すことになる。到着してすぐ買うより、実際に施設をまわり始める直前に買うほうが、24時間を無駄なく使える。
5か所を見終わったあとも、半券は捨てずに持っておく。旧市街への出入りの際に必要になるため、保管するよう案内されている。
- 額面は「120.000 VNĐ」とベトナム語・英語で併記されている
- 発行はホイアン世界文化遺産保存センター(10B Trần Hưng Đạo)
- 様式番号と通し番号が入っている
- QRコードは電子インボイス(領収書)の照会用
チケットブースの場所
チケットブースは旧市街の入り口に10か所以上ある。すべて覚える必要はないが、分かりやすいのは以下の3か所だ。
- 来遠橋(日本橋)の東側──旧市街に入る主要ルート
- 日本橋の西側(グエンティミンカイ通り側)──ダナンから車で来た場合に便利
- ホイアン橋の南側(ファンチューチン通り)──ホイアン市場側からのアクセス
迷ったら、日本橋を目指して歩けばその手前にブースがある。販売時間は7:30〜21:30、冬季は21:00までだ。
16歳未満は無料。パスポートを持っていきたい
16歳未満は無料になる。ただし年齢を証明できるものが要る。パスポートを見せれば通る。
書類がない場合は背丈で判断される。1m未満は無料、1mから1m40くらいまでは50,000ドン(約300円)が目安だ。子ども連れなら、パスポートを持って券売所に行くほうが確実になる。
一度に8枚以上を購入すると、無料のガイドが団体に同行し、旧市街とチケットに記載された施設について案内してくれる。家族やグループで8人以上いるなら、個別に買わずまとめて買ったほうがいい。日本語のガイドが付くとは限らないため、言語は購入時に確認したい。
チケット代の使い道
チケットの収入は、旧市街の保全費用に充てられる。ホイアンは毎年洪水と台風に見舞われる土地で、木造建築の傷みが進んでおり、修復には継続的な資金が要る。チケット代は入場料であると同時に、街を残すための費用でもある。
チケットで入れる施設|番地つきの完全リスト
チケットの対象施設は、地図に載っているものを全部並べる。公式の案内でも数え方が一定しないため、ここでは数ではなく番地で照合できる形にした。番地は、チケット売り場でもらえる地図に振られている番号と同じだ。
並べ方は施設の種類ではなく、券の3つの枠ごとだ。実際に選ぶときの単位がこの3つだからだ。
枠1|代表遺跡──この2つから1か所
| 番地 | 施設名 | 概要 |
|---|---|---|
| — | 来遠橋(日本橋 / Chùa Cầu) | 1593年頃の建造とされる、旧市街の象徴。2024年8月に修復が完了 |
| 24 | 関公廟(Quan Công Miếu / Chùa Ông) | 三国志の関羽を祀る中国系の廟。ホイアン市場に近い |
枠2|博物館──この6つから1か所
| 番地 | 施設名 | 概要 |
|---|---|---|
| 80 | 貿易陶磁器博物館 | 交易港だった時代の陶磁器。日本・中国・東南アジアの品が並ぶ |
| 10B | ホイアン博物館 | 街の歴史全般。チケット売り場と同じ建物にある |
| 149 | サーフイン文化博物館 | ホイアン一帯の先史文化。出土品の展示 |
| 33 | 民俗文化博物館 | 伝統衣装、農漁具、生活用品 |
| 46 | 伝統医学博物館 | ベトナムの伝統的な医療と生薬の展示 |
| 57 | 特産品博物館 | ホイアンの手工芸と特産品 |
枠3|自由に選べる17か所
残りの3枠は、以下の17か所から自由に選ぶ。会館・古民家・祠堂・集会所と、どこにも属さない4か所だ。

| 番地 | 施設名 | 概要 |
|---|---|---|
| 46 | 福建会館(Hội quán Phúc Kiến) | 会館では最大規模。極彩色の門で、旧市街でいちばん人が多い |
| 176 | 広東会館(Hội quán Quảng Triệu) | 中国南方建築の典型。朱色の柱と中庭 |
| 362 | 潮州会館(Hội quán Triều Châu) | 1845年の建造。絵付けタイルの装飾が特徴 |
| 10 | 海南会館(Hội quán Hải Nam) | 海南島出身の華僑が建てた会館 |
| 4 | フーンフンの家(Nhà cổ Phùng Hưng) | 約200年前。ベトナム・中国・日本の様式が混ざった造り |
| 101 | タンキーの家(Nhà cổ Tấn Ký) | 200年以上前。ホイアンの町家の造りがよく残っている |
| 77 | クアンタンの家(Nhà cổ Quân Thắng) | 木彫りの装飾が細かい。奥でホワイトローズを出している |
| 129 | ドゥックアンの家(Nhà cổ Đức An) | 書物と薬を扱っていた家。当時の帳場が残る |
| 21 | チャン家の祠堂(Nhà thờ tộc Trần) | 一族の先祖を祀る建物。庭のある静かな敷地 |
| 8/2 | グエントゥオン家の祠堂(Nhà thờ tộc Nguyễn Tường) | 同じく一族の祠堂。訪れる人は少ない |
| 52 | カムフォー集会所(Đình Cẩm Phô) | 村の共同体の集会所。旧市街の西側 |
| 14 | 明郷集会所(Đình Minh Hương) | 明の遺民が築いた集落の集会所 |
| 27 | ホイアン集会所(Đình Hội An) | ホイアンの町の集会所 |
| 13 | 観音寺(Chùa Phật Quan Âm) | 旧市街で最も古い仏教寺院。370年あまりの歴史があり、明郷(ミンフーン)の人々が建てた。植民地期に移され、いまは関公廟の裏手にある。キムボン木工村の職人が彫った木組みが見どころ |
| 6 | 日本文化展示館 | 日本との交流をたどる展示。日本茶道の実演が行われる |
| 66 | 伝統芸能公演場 | 1日3回の公演会場。2026年3月に移転した |
| 26 | プレシャス・ヘリテージ美術館 | フランス人写真家による民族の肖像写真。入場無料と案内されている |

目的別「5か所」の選び方|4つのパターン
チケットは購入から24時間なので、5か所は基本的に1日で使い切ることになる。しかも枠が決まっているぶん、組み合わせは見た目ほど自由ではない。代表遺跡から1か所、博物館から1か所、残りから3か所だ。
ここでは目的別に4パターン挙げる。施設名のあとに付けた番号はそのまま建物の番地なので、地図の番号でもGoogleマップでも同じ数字で探せる。
パターン1|半日で、日本橋の中まで見る(3〜4時間)
初めてのホイアンで、来遠橋(日本橋)に入りたい人向け。西の端から東へ歩いて、最後に川沿いへ下りる形になる。
- フーンフンの家(4 Nguyễn Thị Minh Khai)──橋の西のたもと
- 来遠橋(日本橋)=代表遺跡の枠
- 広東会館(176 Trần Phú)──橋を渡ってすぐ
- 貿易陶磁器博物館(80 Trần Phú)=博物館の枠
- タンキーの家(101 Nguyễn Thái Học)──川沿いへ一本下りる
パターン2|2〜3時間しかない
夕方に着いてランタンだけ見て帰る、というような日程向け。市場のある東側だけで5か所が収まる。
- 関公廟(24 Trần Phú)=代表遺跡の枠
- 観音寺(13 Nguyễn Huệ)──関公廟のすぐ裏手
- 福建会館(46 Trần Phú)
- 明郷集会所(14 Trần Phú)
- 貿易陶磁器博物館(80 Trần Phú)=博物館の枠
パターン3|日本との縁をたどる(3〜4時間)
400年前の日本人町の痕跡を追いたい人向け。旧市街の西側にまとまっている。
- 来遠橋(日本橋)=代表遺跡の枠
- 日本文化展示館(06 Nguyễn Thị Minh Khai)──日本茶道の実演は毎日9:30と16:30
- フーンフンの家(4 Nguyễn Thị Minh Khai)──日本の様式が混ざった造り
- 貿易陶磁器博物館(80 Trần Phú)=博物館の枠。交易港だった時代の陶磁器
- タンキーの家(101 Nguyễn Thái Học)
日本人商人の墓は旧市街から2.5〜3kmほど離れていて、チケットの対象には入っていない。行くなら別に時間を取ることになる。
パターン4|建築と装飾をじっくり見る(4〜5時間)
彫刻や装飾を近くで見たい人、写真を撮りたい人向け。東の端まで足を延ばすので、4パターンでいちばん歩く。
- 来遠橋(日本橋)=代表遺跡の枠
- 福建会館(46 Trần Phú)──極彩色の門
- 民俗文化博物館(33 Nguyễn Thái Học)=博物館の枠
- タンキーの家(101 Nguyễn Thái Học)
- 潮州会館(362 Nguyễn Duy Hiệu)──絵付けタイルの装飾。市場より東で、少し離れる
日本橋(来遠橋)完全ガイド|400年前の日本人がつくった橋

ホイアン旧市街の数ある見どころの中で、日本人旅行者にとって最も特別な意味を持つのが、日本橋(来遠橋 / Chùa Cầu)だ。この橋の深掘りだけで記事を1本書けるほど、歴史と意味が詰まっている。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 来遠橋(Lai Viễn Kiều / Chùa Cầu) |
| 別名 | 日本橋(Japanese Bridge) |
| 建造年 | 1593年頃とされる(諸説あり) |
| 長さ | 約20m |
| 構造 | 木造、屋根付き |
| 橋の中 | 小さな寺院あり(無料で通行可、寺院見学はチケットが必要) |
| 料金 | 橋を通行するだけなら無料。中の寺院を見学するには代表遺跡の枠を使う(関公廟とは択一) |
| 現代の象徴性 | ベトナム20,000 VND紙幣の裏面に描かれている |
歴史|関ヶ原時代の日本人が架けた橋
日本橋の歴史は、1593年頃にさかのぼる。この時期は日本では豊臣秀吉の文禄・慶長の役(1592〜98年)の最中で、その直後の1600年に関ヶ原の戦い、1603年に江戸幕府成立という時代だ。
当時のホイアンには、朱印船貿易で日本から渡った商人が多数居住しており、日本人町と中国人町が旧市街に並存していた。日本橋は、この2つの町を結ぶ橋として、日本人の手によって架けられたと伝えられている。
橋の建築様式には、以下の3民族の要素が融合している。
- 日本: 橋の基本構造と木造屋根
- 中国: 赤い柱、装飾、橋の中の寺院
- ベトナム: 屋根瓦、装飾タイル
この「3民族の融合建築」は世界的に見ても珍しく、世界遺産登録の理由の一つにもなっている。
橋の中のお寺と、両端の動物(犬と猿の像)

日本橋の中央部分には、小さな寺院がある。建築当時から橋の一部として組み込まれた寺院で、水神「玄武」を祀るという説が有力だ。これは、トゥボン川の氾濫から橋と街を守るための祈りの場として機能してきた。
橋の両端には、犬と猿の像が置かれている。これは「橋の建設が犬の年(戌年)に始まり、猿の年(申年)に完成した」ことを示すとされている(諸説あり)。
2024年のリニューアル
日本橋は、2022年〜2024年にかけて大規模な修復工事が行われ、2024年8月にリニューアルオープンした。400年以上の歴史を持つ木造建築は、経年劣化と洪水被害で損傷が進んでおり、本格的な補修が必要とされていた。
修復工事はベトナムと日本の大工による共同作業で行われ、伝統工法を活かしながら構造補強と部材交換が実施された。工事期間中は橋の内部構造が一般公開されており、通常は見られない木組みと木工の技術を観察できた旅行者もいた。
2024年8月以降、日本橋は再び観光客に開放されており、修復された姿を見られる。ただし、修復前の古びた風合いを懐かしむ声も現地にはあり、「新品すぎる」という評価もある。
日本文化展示館|茶道の実演が見られる
橋の西のたもと、06 Nguyễn Thị Minh Khaiにある展示館。日本とホイアンの交流をたどる展示のほか、日本茶道の実演が毎日9:30と16:30に行われている。折り紙や、ベトナムと日本の伝統衣装の着付けといった催しもある。
チケットの自由枠を1つ使う施設だ。日本橋を見たあと、そのまま西へ数十メートル歩けば着く。
日本人商人の墓|旧市街の外に残る3つの墓
旧市街から北へ2.5〜3kmほど離れた田園地帯に、江戸期の日本人商人の墓が残っている。案内に名前が挙がっているのは谷弥次郎兵衛、盤二郎、愚息君の3人だ。
チケットの対象には入っていないので、枠を使わずに行ける。ただし歩ける距離ではないので、Grabかレンタサイクルで行くことになる。旧市街の見学とは別に時間を取りたい。
撮影スポットとしての日本橋
日本橋は、ホイアン旧市街で最も撮影されるスポットだ。おすすめの撮影時間帯は以下の通り。
- 朝7〜9時: 人出が少なく、柔らかい光で橋全体を収められる
- 夕方16〜17時: 夕日の逆光で橋のシルエットが美しい
- 夜18〜21時: ランタンと橋のライトアップ、幻想的だが人出最多
夜の撮影については、ホイアンのランタン祭り完全ガイドの記事でも詳しく扱っている。
2万VND紙幣の裏面
現代のホイアンを象徴するもう一つの事実は、ベトナムの20,000 VND紙幣の裏面に日本橋が描かれているということだ。ベトナム人にとって日本橋は、単なる観光スポットではなく、国民的な文化財として認知されている。
日本人旅行者の多くは、ホイアンを訪れた記念に20,000 VND紙幣を1枚保管して帰国する。この紙幣は約120円の価値しかないが、400年前の日越交流の証として持ち帰る価値がある。
ホイアン旧市街とは|トゥボン川河口の交易港の記憶
ホイアン旧市街は、ベトナム中部を流れるトゥボン川の河口デルタに広がる、世界遺産に登録された歴史保護地区だ。ダナン市街から南へ約30km、車で40〜50分の距離にある。2025年7月の行政再編で、ホイアンは旧クアンナム省から新ダナン市の一部になったが、住民のアイデンティティは今も「ホイアン」として独立している。
最も栄えたのは17〜18世紀
ホイアンの町ができたのは15〜16世紀で、東西貿易の中継地点として最も栄えたのは17〜18世紀だ。この時代、日本・中国・オランダ・ポルトガル・インド・シャム(現タイ)などから商人が集まり、多言語・多文化が交錯する港町だった。
特筆すべきは、日本人町の存在だ。1600年前後(日本では関ヶ原の戦いがあった時期)、朱印船貿易の拠点として日本からの商人が多数居住しており、最盛期には1,000人規模の日本人がホイアンで暮らしていたとされる(諸説あり)。
その後、江戸幕府の鎖国政策で日本との公式交易は途絶え、ホイアンの日本人町も衰退していったが、街には日本の痕跡が今も残っている。その代表が、後述する日本橋(来遠橋)だ。
なぜ今も当時の街並みが残っているのか
ホイアンが世界遺産として価値を持つのは、16〜19世紀の木造建築群がほぼ原型のまま残っていることにある。他の東南アジアの交易港の多くが近代化で取り壊されたり、戦災で焼失したりした中、ホイアンは例外的に古い街並みを保存することに成功した。
その理由は2つ。1つは、19世紀にトゥボン川の河口が土砂で浅くなり、大型船が入港できなくなったため、交易港としての機能をダナンに譲ったこと。近代化の波が相対的に緩やかだった結果、古い建物が残った。もう1つは、ベトナム戦争でも戦火を免れたこと。ハノイやフエが戦災で大きな被害を受けた中、ホイアンは破壊を免れた。
この「時間が止まった街」としての価値が評価され、1999年にユネスコ世界文化遺産に登録された。ベトナムの世界遺産全体の話は、ベトナムの世界遺産一覧|全9件の見どころ・アクセス・歴史の記事で扱っている。
ホイアンの「暗い面」も知っておく
この記事では観光の実務情報を中心に扱うが、ホイアンには洪水との永続的な闘いという暗い面もある。トゥボン川河口デルタの低地に位置するため、毎年雨季に冠水のリスクがあり、2025年には過去10年で最大の洪水が発生した。伝統的な木造家屋には水害対策が随所に組み込まれており、住民は「洪水と共存する」生活を数百年続けてきた。
この建築文化の詳細と、雨季のホイアン訪問のリスク判断については、ホイアンのベストシーズンと気候完全ガイドの記事で深掘りしている。本記事では、乾季(3〜4月頃)に旧市街を散策することを前提として話を進める。
旧市街の歩き方|通りごとの特徴と所要時間
ホイアン旧市街は、東西約600m、南北約400mの範囲に収まっている。徒歩で端から端まで15分程度なので、全体をのんびり散策しても2時間あれば十分だ。以下、主要な通りごとの特徴をまとめた。
チャンフー通り(Trần Phú)|旧市街の背骨

旧市街を東西に貫くメインストリート。日本橋の東端からホイアン市場まで伸びる約600mの通りで、チケットの対象施設の過半数がこの通り沿いにある。
- 福建会館、広東会館、関公廟、クアンタンの家が集中
- ランタンが最も多く飾られている通り
- 昼は歩行者が多く、夜は最も混雑する
- カフェ・レストランが軒を連ねる
チャンフー通りを西端から東端まで歩くだけでも、ホイアン旧市街の雰囲気の8割は掴める。
グエンタイホック通り(Nguyễn Thái Học)|カフェとギャラリー
チャンフー通りの1本南側を平行に走る通り。アート系のカフェ・ギャラリー・ブティックが多く、散策の休憩に最適。観光客の人出はチャンフー通りよりやや少ないので、ゆっくり歩ける。
- タンキーの家、民俗文化博物館、伝統医学博物館がこの通りにある
- テーラー(オーダーメイド服)の店も多い
- カフェのテラス席が多く、休憩向き
バクダン通り(Bạch Đằng)|トゥボン川沿い

旧市街の南側、トゥボン川に面して走る通り。川沿いの景色が美しく、夜は灯籠流しの中心地になる。
- 川沿いのレストラン・カフェが並ぶ
- 灯籠流しのボート乗り場が集中
- ホイアン市場にも接続
川沿いで食事や休憩を取るなら、この通り。ただし、雨季の洪水時には真っ先に浸水するエリアでもある。
ファンチューチン通り(Phan Chu Trinh)|北の静かな通り
旧市街の北端を走る通り。観光客が少なく、地元住民の生活エリアに近い雰囲気がある。古民家や小さな雑貨店、地元のカフェがあり、旧市街の「裏側」を見たい人にはおすすめ。
- チケットブースの1つがこの通り沿いにある
- 旧市街の北の境界
グエンティミンカイ通り(Nguyễn Thị Minh Khai)|日本橋西側の通り
日本橋の西側から伸びる通り。ファンチューチン通り(北の傾斜地)や古民家エリアと接続しており、観光ルートの起点の一つ。
所要時間の目安
| 歩き方 | 所要時間 |
|---|---|
| 旧市街を一周散策するだけ | 約1時間 |
| 主要通りを歩き、写真を撮る | 約2時間 |
| チケットで5か所入場しながら散策 | 3〜4時間 |
| 食事・カフェ・買い物込みで楽しむ | 半日(5〜6時間) |
| 昼と夜の両方を体験する | 1日(8時間以上) |
| 1泊してじっくり楽しむ | 1泊2日 |
半日・1日・1泊2日それぞれの具体的な回り方は、ホイアン観光モデルコース完全版で時間帯別に紹介している。
昼と夜のホイアンは別物
ホイアン旧市街は、昼と夜でまったく違う顔を見せる。昼は建築・歴史・文化を鑑賞する時間帯、夜はランタンの灯りに包まれた幻想的な散策の時間帯だ。
- 昼(7〜17時): チケット施設を巡り、建築や博物館を鑑賞する時間帯。光が柔らかい朝と、人出が少ない夕方が狙い目
- 夜(17:30〜22:00): ランタンが点灯し、旧市街が幻想的な雰囲気に変わる。写真映えスポットが最大化
夜の旧市街の詳細(ランタン祭りの日・普段の日の違い、撮影スポット、混雑対策)は、ホイアンのランタン祭り完全ガイドの記事で扱っている。屋台や買い物が目的なら、ホイアンのナイトマーケット完全ガイドでアンホイ島側と旧市街側の2か所を目的別に分けて書いている。本記事では昼の散策を中心に扱う。
旧市街での実務情報
開館時間
ほとんどの対象施設は7:30頃に開き、17:00〜18:00に閉まる。閉館時刻は施設によって違い、17時で閉まるところもある。一部は昼休み(12:00〜13:30頃)に閉まることがあるので、午前中または15時以降の訪問が無難。
伝統芸能の公演は1日3回(10:15/15:15/16:15)の定時上演なので、この時間に合わせて予定を組む。会場は2026年3月にバクダン通り66番地からソンホアイ広場(01 Cao Hồng Lãnh)の2階ホールへ移転した。
トイレ事情
旧市街内の公共トイレは非常に少ない。大きなチケット施設(フーンフンの家、福建会館など)にトイレがあるが、常に清潔とは限らない。カフェやレストランで休憩しがてら借りるのが現実的な選択肢だ。
ベトナム全体のトイレ事情については、ベトナムのトイレ事情2026|旅行前に知っておきたい清潔度・紙事情・使い方ガイドを参考にしてほしい。
服装|歩きやすさと、見学時の決まり
旧市街の道は石畳と舗装路の混在で、ヒールやサンダルは歩きにくい。スニーカーまたはフラットシューズが必須。日差しが強い日中は帽子・サングラス・日焼け止めも忘れずに。
歩行者天国の時間
旧市街の中心部は、決まった時間帯に歩行者と自転車・シクロだけの通りになる。案内されているのは夏季9:00〜21:30、冬季9:00〜21:00。ファンチューチン通りだけは17:30からで、終わりの時刻は同じだ。
ただし紙の案内では、午前(9:00〜11:00)と午後(15:00〜21:00台)に分けて書かれているものもある。昼前後はバイクが入ってくることがあると考えて歩いたほうが安全だ。
服装の詳細は、ベトナム旅行の服装ガイド|地域・気温・天気別の正解パッキングを参考にしてほしい。
現金とカード
チケット代金と小さな店舗では現金(VND)が基本。大きなカフェやレストランではクレジットカードが使えることも多いが、旧市街の屋台や雑貨店は現金のみ。事前に20〜30万VND(約1,200〜1,800円)程度の小額紙幣を用意しておくとスムーズだ。
Wi-Fi・通信
旧市街のほとんどのカフェ・レストランに無料Wi-Fiがある。ただし、混雑時は接続が不安定になることもあるので、SIMカードまたはeSIMを別途用意しておくと安心。
ベトナムのSIM事情は、ベトナムのeSIM・SIMカード完全ガイドで解説している。
旧市街マップの入手方法
旧市街の紙マップは、チケットブースで無料でもらえる。Google Mapsでも主要スポットは表示されるが、古民家や会館の細かい場所は紙マップのほうが分かりやすい。
旧市街で避けるべき失敗パターン
失敗1|チケットを買わずに対象施設に入ろうとする
散策だけなら無料でも、来遠橋・福建会館・古民家などの対象施設に入るにはチケットが必要。入り口で「チケットは?」と聞かれて引き返すのは時間の無駄。訪問前にチケットブースでまとめて購入しておく。
失敗2|時間配分を誤って夕方に見学が間に合わない
対象施設は17:00〜18:00に閉まる。18時まで開いているつもりで17時頃から回り始めると、先に閉まる施設に間に合わない。午前中〜14時頃までに主要施設を済ませ、15時以降は散策・食事・買い物に充てるのが効率的。
失敗3|移転前の住所で公演会場に向かう
伝統芸能の公演は10:15/15:15/16:15の1日3回で、会場は2026年3月にソンホアイ広場(01 Cao Hồng Lãnh)へ移転した。街で配られているパンフレットには、移転前のバクダン通り66番地が載ったままのものがある。時間だけ合わせて古い住所に向かうと、たどり着けない。
失敗4|帰りのGrab・タクシーで立ち往生
ホイアン旧市街の中心部は車両進入制限があるため、旧市街の真ん中からGrabやタクシーを呼んでも来られない。旧市街の外周(ハイバーチュン通り、リータイトー通り付近)まで歩いてから配車する必要がある。
詳細は、ダナンからホイアンへの行き方|空港・市内からの移動と帰り方の記事で扱っている。
失敗5|スリ・ぼったくりへの無警戒
祭りの日や観光ピーク時間帯(19〜21時)の旧市街では、スリ・置き引き・価格ぼったくりの頻度が上がる。
- バッグは前に抱える
- 高額紙幣はホテルに残し、必要分のみ持ち歩く
- 値段交渉は事前に確認してから
- 灯籠売りやボート業者の「特別価格」には注意
失敗6|雨季(10〜11月)に訪問する
10月〜11月のホイアン旧市街は、洪水で旧市街が冠水する可能性が高い時期だ。2025年には過去10年で最大の洪水が発生し、旧市街が一時立ち入り禁止になった。
雨季のホイアン訪問の判断と、洪水遭遇時の対処法は、ホイアンのベストシーズンと気候完全ガイドの記事で扱っている。
旧市街で食べるもの・飲むもの・買うもの
旧市街での食事・買い物は、この記事の主題ではないため軽く触れる程度にとどめる。詳細は関連記事を参照してほしい。
ホイアン四大名物(食べ物)

- カオラウ(Cao Lầu): ホイアン発祥の汁なし麺、独自の太麺
- ホワイトローズ(Bánh Bao Bánh Vạc): エビのすり身を米粉生地で包んだ蒸し点心
- コムガー・ホイアン(Cơm Gà Hội An): ホイアン風チキンライス、ウコン入りの黄色いごはん
- ホイアン風バインミー(Bánh Mì Hội An): 中部風の具材とソース
これら4品の深掘りと、おすすめ店舗情報は、ダナングルメ完全ガイドの記事で扱っている。旧市街のチケット施設「クアンタンの家」では、建物奥でホワイトローズを食べられる隠れ人気スポットになっている。
飲み物
- ベトナムコーヒー: 旧市街のカフェはどこも美味しい。川沿いのテラス席が特におすすめ
- ビール(ビアホイ): 地元のビールを安く飲める屋台
- フルーツジュース: マンゴー・パッションフルーツ・シントー(スムージー)
ベトナムコーヒーの詳細は、ベトナムコーヒーの飲み方・注文・お土産の記事で扱っている。
買い物
- ランタン: ホイアン最大の名物お土産、折りたたみ式もある
- シルク製品: オーダーメイドのアオザイ、シルクスカーフ
- 刺繍雑貨: 蓮の花やベトナム風景のモチーフ
- 陶器・木彫り
お土産選びの詳細は、ベトナムのお土産ガイドの記事で扱っている。
アオザイレンタル・撮影
ホイアン旧市街は、アオザイのレンタル撮影に人気のスポットだ。ランタンが灯る夜の街並みとアオザイの相性は抜群で、多くの女性旅行者が記念撮影を楽しんでいる。
アオザイレンタルの相場と流れは、ベトナムのアオザイ完全ガイドの記事で扱っている。
よくある質問(FAQ)
Q1. ホイアン旧市街にチケットなしで入れる?
入れる。2023年5月15日以降、個人旅行者は散策・観光・食事・買い物のために無料で旧市街に入れる。ただし、対象施設(来遠橋・福建会館・古民家など)に入場する場合はチケットが必要。団体観光客は現在もチケットが必要。
Q2. チケットはどこで買えばいい?
旧市街の入り口10か所以上にチケットブースがある。一番分かりやすいのは日本橋の東西両側。迷ったら日本橋を目指して歩けば、その手前にブースがある。
Q3. チケットの有効期限は?
購入時刻から24時間。券面には購入時刻(時:分)の記入欄と担当者の署名欄があり、購入時にスタッフが記入する。そこから24時間が有効期限になる。日をまたいでゆっくり回りたい場合は、その都度買い直すことになる。
Q4. 対象施設をすべて見たい場合はどうする?
1枚で5か所なので、全部を見るには5枚(120,000×5=600,000 VND、約3,600円)が要る。ただし1日で全部は現実的に難しい。有効期限は購入から24時間なので、日を分けるなら訪問する日ごとに買い直すことになる。
Q5. 日本橋は無料で通行できる?
通行のみは無料。橋の中央にある寺院を見学する場合は、代表遺跡の枠を1つ使う。関公廟とは択一なので、両方の中を見るならチケットが2枚要る。
Q6. 所要時間はどのくらい必要?
最短2時間(散策+日本橋周辺のみ)、標準4時間(チケットで5か所訪問)、理想6〜8時間(食事・買い物・カフェ休憩込み)、ベスト1泊2日(昼と夜の両方を体験)。
Q7. 旧市街の営業時間は?
対象施設は概ね7:30〜18:00。ただし17時で閉まる施設もある(一部は昼休みあり)。レストラン・カフェは遅い時間まで営業、夜のランタン時間帯(17:30〜22:00頃)は屋台も賑わう。
Q8. チケットブースで日本語は通じる?
日本語対応は基本的に期待できない。券面や案内表示は英語・ベトナム語が中心で、スタッフとは英語が通じる。ホイアンは韓国人観光客が多く、韓国語の表示やメニューを見かけることはあるが、日本語のパンフ等は基本的に用意されていないと考えておくとよい。
Q9. 旧市街のベストな訪問時間帯は?
朝7〜10時(人出少なく光が柔らかく、対象施設も開いている)が最優先。次に夕方16〜18時(ランタン点灯直前の美しい時間帯)。混雑を避けたい人は、日中12〜14時は避ける(観光バスの団体が到着する時間帯)。
Q10. 雨季に行っても大丈夫?
9月上旬・12月下旬以降〜2月ならOK、10〜11月は避ける。10〜11月はホイアン旧市街が洪水で冠水するリスクが高い時期で、2025年には過去10年で最大の洪水が発生した。詳細はホイアンのベストシーズンと気候完全ガイドを参照。
Q11. 子連れで楽しめる?
楽しめるが、注意点あり。石畳の道はベビーカーに不向き、対象施設の階段は狭い、トイレが少ない、日中の日差しが強い。ベビーカーより抱っこ紐、こまめな水分補給、日陰でのカフェ休憩を活用する。
Q12. 旧市街とホイアン市場はどう違う?
ホイアン市場は旧市街の東端にある生鮮市場で、地元の日常生活の場だ。観光客向けというより、地元の買い物客が多い。チケットの対象施設ではないので、自由に散策できる。隣接するホイアン布市場では、オーダーメイドの服やアオザイを作れる。
まとめ|ホイアン旧市街に行くなら
- 2023年5月以降、個人旅行者は無料で旧市街に入れる。チケットの対象施設に入るときだけ必要
- チケットは1枚120,000 VND(約720円)で5か所ぶん。代表遺跡1・博物館1・自由3という構成で、有効期限は購入から24時間
- 5か所は目的別に4パターン。半日で日本橋の中まで、2〜3時間で東側だけ、日本との縁をたどる、建築と装飾を見る
- 日本橋は2024年8月に修復が完了、400年前の日越交流の跡がそのまま残っている
- 所要時間は半日〜1日、理想は1泊2日で昼と夜の両方を体験
- ベストな訪問時間帯は朝7〜10時または夕方16〜18時、ピーク時間帯(12〜14時・19〜21時)は混雑
- 雨季(10〜11月)は避ける、洪水リスクで旧市街が閉鎖される可能性
ホイアン旧市街は、400年前の日越交流の記憶を今も残す、ベトナム中部で最も日本人にとって意味のある場所だ。チケットの仕組みを押さえて、目的に合う5か所を選んでほしい。この記事がその材料になれば嬉しい。なお、旧市街以外も含めたホイアン全体の計画(移動・宿・モデルコース・季節)は、ホイアン観光完全ガイドにまとめてある。