ベトナムのライスペーパーは、日本で「生春巻きの皮」として売られているものとは、種類も使い方も違います。水にしっかり浸さず、軽く湿らせるだけで巻けるものも普通に並んでいますし、国の中でも地域によって呼び方が変わります。
私の実家は、ハナム省のチェウ村でライスペーパーを作っています。作る側から見たことも、あわせて書きました。
先に要点だけ知りたい方へ。
- ベトナムのものは、水に浸さず軽く湿らせるだけで巻けるタイプが多いです
- ハノイでは「バインチャン」ではなく「バインダーニャム」と呼びます
- ハノイでは300gで25,000ドンほど。同じ量を日本で買うと3〜4倍します
順番に見ていきます。
ライスペーパー(バインチャン)とは
米を水でといて薄くのばし、蒸して、天日で乾かしたシートです。ベトナム語では bánh tráng と書きます。tráng は「薄くのばす」という意味の動詞で、作り方がそのまま名前になっています。
日本で「生春巻きの皮」として売られているものが、これです。日本ではその用途で知られていますが、ベトナムでの使い道はもっと広く、揚げ春巻きの皮、焼いてせんべい、蒸した豚肉を巻く、割ってスープに入れる、といった具合に、米の加工品として日常的に使われています。

原料は米粉と水と塩。これにタピオカ粉(bột năng)を混ぜるかどうかで、仕上がりが変わります。タピオカ粉が入るともちもちして弾力が出て、破れにくくなります。入らないものは、揚げたときに軽くパリッとします。
日本のものと、ベトナムのものはどう違うか
いちばん大きな違いは、水に浸すかどうかです。
ベトナムのものは、浸さずに巻けるものが多い
ハノイでは、水にしっかり浸さず、軽く湿らせるだけで巻けるタイプが多く売られています。触るとやわらかく、しなやかです。袋に không nhúng nước(ホン ニュン ヌオック=水につけないで)と書かれているものもあります。

「không nhúng nước」と書かれたタイプが硬くて巻きにくいときも、水にくぐらせることはしません。手のひらに少し水をつけて表面をなでるか、濡らした布巾で軽く拭くか、トマトの薄切りで表面をこすります。濡らしすぎないことが、いちばん大事です。
一方で、水や蒸気でやわらかくしてから使う商品もあります。袋の表示を見るのが確実です。
日本で買ったものを戻すとき
日本のスーパーやカルディで「生春巻きの皮」として売られているものは、パリッと硬い、水に浸すタイプがほとんどです。
メーカーの表示を見ると、秒数は書かれていません。「水またはぬるま湯でさっと戻す」「水にサッとくぐらせる」という書き方です。浸している時間より、早く引き上げることのほうが大事だからです。
戻しすぎると破れます。手に取ったときに「まだ少し硬いかな」と思うくらいで引き上げて大丈夫です。具材を乗せている間にも水分を吸って、巻くころにはちょうどよくなります。
くっつく・破れるとき
くっつく原因は、たいてい2つです。何枚も重ねて水に入れたことと、水につけすぎたことです。1枚ずつ濡らして、濡らしたらすぐに巻きます。まな板の上に置いたまま放っておくと、板にはりついて剥がれなくなります。
破れるときは、具材が多すぎるか、水分の多い具材が入っているかです。きゅうりやもやしを入れるときは、水気を切ってから巻きます。巻くときは、きつく締めすぎず、ゆるすぎない加減にします。揚げ春巻きの場合は、巻き終わりに卵白を少し塗ると、揚げている間に開きません。
厚さ・枚数・値段の比較
日本で売られているものは直径22cm前後が主流で、内容量は120gで約12枚、200gで約20枚といったところです。値段は1袋250〜400円ほどなので、1枚あたり20〜30円になります。直径15.5cmの薄型や、12cmの小さいものもあります。
ハノイのスーパーで見た薄型(16×21cm)は、300gで25,000ドン(約150円)でした。100gあたり約50円です。日本のものは200gで250〜400円なので、100gあたり150〜200円。同じ量を日本で買うと3倍から4倍という計算になります。かさばらず軽いので、使う人ならまとめて持ち帰る価値はあります。

地域によって呼び方が違います
同じものなのに、ベトナムの中で呼び方が分かれています。
北・中・南で名前が違う
| 地域 | 呼び方 | 読み |
|---|---|---|
| 北部(ハノイなど) | bánh đa nem / bánh đa | バインダーニャム/バインダー |
| 中部 | bánh tráng | バインチャン |
| 南部 | bánh tráng | バインチャン |
このほかに、皮そのものを指して vỏ nem(ヴォーニャム=春巻きの皮)という言い方もあります。地域や用途によっては、浸して使うものを bánh tráng nhúng、中部のハティン・ゲアンあたりでは bánh ram と呼ぶこともあります。

日本語の記事やパッケージで見かける「バインチャン」は、中部・南部で広く使われている言い方です。ハノイでもこの言葉は通じます。バインチャンチョン(和え物)やバインチャンヌン(焼き)が広まったので、言葉としては知られているからです。ただ、揚げ春巻き用の皮を買いたいときは、bánh đa nem と言うほうが確実です。
市場では「Chị ơi, cho em bánh đa nem(チ オイ、チョ エム バインダーニャム)」と言えば通じます。
なぜ北部だけ名前が変わったのか
もともとは北部でも bánh tráng と呼んでいました。名前が変わったのは、17世紀の北部を治めていた鄭主チン・チャン(Trịnh Tráng)のためです。
ベトナムには、君主の名前と同じ字を避けて別の言い方に変える習慣がありました。tráng が君主の名と重なってしまったので、北部では bánh đa と言い換えられ、そのため北部ではこの呼び方が定着したとされています。
名前だけでなく、モノも少し違う
北部の bánh đa nem には、タピオカ粉を使わず、米粉だけで作るものがあります。南部のものより薄く、揚げたときに硬くならず、軽くカリッと仕上がります。作り方は産地や作り手ごとに違うので、北部のものがすべてそうだというわけではありません。
茶色っぽい色をしたものも売られています。これは焦げているのではなく、糖蜜(mật mía)を加えたもので、ほのかな甘みがあり、揚げるときれいな赤茶色になります。揚げ春巻きやカニ春巻き(nem cua bể)に使われます。

ベトナムの市場で売っているもの
日本で生春巻きの皮として売られているものと同じ棚に、ベトナムでは何種類も並んでいます。市場でも、スーパーでも、乾物店でも買えます。

大きさと厚さ
ハノイのスーパーで並んでいたのは、直径22cmの丸型と、16×21cmの四角いもの。どちらも1袋300gでした。丸型と四角型があり、四角いものは揚げ春巻きに使われることが多く、巻きはじめの角がそろうので巻きやすいです。
目安として、薄手は揚げ春巻き、弾力のあるものは巻き物、厚手は焼いて食べる用途に使われます。ただし、厚さと用途の対応は商品や地域によってかなり違います。
ライスペーパーに裏表はある?
商品によって、片面がつるっとしていて、もう片面にすだれや布の跡が残っているものがあります。天日で干すときに敷いていたものの跡です。
袋に向きの指定が書かれている商品は、それに従います。指定のないものは、巻きやすいほうを内側にして大丈夫です。
値段
種類と枚数でかなり幅があります。目安はこれくらいです。
- 小さい袋・枚数の少ないもの ── 8,000〜15,000ドン前後(約50〜90円)
- ふつうに並んでいるもの ── 15,000〜30,000ドン前後(約90〜180円)
- 実際に買った薄型(16×21cm・300g) ── 25,000ドン(約150円)
なお、味付けして混ぜ込んだスナックタイプはこれとは別で、ホーチミンの乾物店ではジャー入りが76,000〜120,000ドン(約460〜720円)で並んでいました。

日本のスーパーで買うことを考えると、かなり安いです。かさばらず軽いので、お土産にしやすい部類に入ります。
どこで買うか
市場の乾物店、街なかの食品店、スーパーのどれでも扱っています。産地の名前で選ぶこともできます。
トーハー(Thổ Hà)はバクニン省にある村で、バインダーニャムの産地としてよく知られています。2025年には、この村の製法が国の無形文化遺産の一覧に加えられました。白いもの、黄色いもの、糖蜜入りの赤茶色のものがあり、ハノイの店でも並んでいます。

チェウ村(làng Chều)はハナム省の村で、こちらも古くからの産地です。
ホーチミンなら、3区のBột’s Foodのようにライスペーパーを専門に扱う店もあります。市内で買える場所はホーチミンのお土産記事でまとめています。
乾いたまま焼く食べ方もあります
ベトナムでは、水に戻さず乾いたまま炭火やフライパンにのせて焼く食べ方があります。うずらの卵を割り入れてのばし、肉そぼろや青ねぎを乗せて焼いたものが屋台で売られていて、バインチャンヌン(bánh tráng nướng)と呼ばれます。この名前は、ハノイでも同じです。
これとは別に、北部には bánh đa nướng(バインダーヌン)という、白ごまをふった分厚いせんべいがあります。名前が似ていますが、まったく別の食べ物です。

私の家では、こう作っています
私の実家は、ハナム省のチェウ村(làng Chều)にあります。昔からバインダーニャムを作ってきた村です。父祖の代は手で1枚ずつ延ばしていました。いまは機械で延ばしています。

使うのは、カンザン(khang dân)という品種の白米だけです。米を水に浸してから挽いて粉にして、塩を少し入れます。塩を入れると皮がやわらかくなるんです。ほかの粉は何も混ぜません。




朝のうちは外に並べて天日で干して、そのあとは家の中で乾かします。日に当てるので、香りが立って、しなやかに仕上がります。作っているのは主に、巻き物用の薄いもの。糖蜜で色をつけたものも作りますし、注文があれば焼く用の厚いものも作れます。色をつけるときは、その場で量を見ながら生地に混ぜます。

村では、これを「バインダーニャム」と呼びます。
ベトナム全体では、米粉にタピオカ粉を混ぜるものもあります。私の家のように米だけで作るものは、揚げたときに軽くカリッと仕上がります。

よくある質問
賞味期限はどのくらいですか
ハノイのスーパーで手に取った袋を見ると、6か月から9か月と書かれていました。トーハー村の協同組合のものが6か月、バインダーニャム3Dが6か月、糖蜜入りのバインラムが9か月です。
乾物なので、日にちが経つとすぐ悪くなるというものではありません。ただ、古くなると割れやすくなります。日付は袋に印刷されているので、買うときに確かめてください。
どこに置いて保存しますか
どの袋にも、乾いた風通しのよい場所に置くと書かれています。湿気を避けること、直射日光を避けること、においの強いものと一緒に置かないこと。表現は違いますが、言っていることは同じです。
冷蔵庫や冷凍庫に入れるようにと書いてある袋は、ひとつもありませんでした。常温で大丈夫です。袋の口を閉じて、乾いた場所に置いておけば十分です。
そのまま食べられますか
袋に không nhúng nước(水にくぐらせない)や Không cần thấm nước khi cuốn(巻くときに水をつけなくていい)と書かれているものは、乾いたまま巻いて食べられます。水に戻す手間がいりません。
ただ、これは巻いて食べるためのものです。乾いたままバリバリかじるのは、厚手の焼く用のほうです。
おわりに
ライスペーパーは、ベトナムの多くの家庭で使われている身近な材料です。名前が地域で分かれているのも、それだけ長く、それぞれの土地で使われてきたからだと思います。
買うときは、まず袋の表示を見ます。やわらかいものはそのまま巻けるタイプが多く、パリパリしているものは水を少し足して使います。ハノイで探すなら「バインダーニャム」と言えば出てきます。