ダーシー鍛冶村|ハノイ近郊の包丁の村・行き方・買い方・鍛冶体験

2026.09.07
文化・歴史

日本ではあまり知られていませんが、ハノイ中心部から車で30分ほどの場所に、何百年にもわたって包丁やハサミを作り続けてきた鍛冶村があります。

この記事では、そのダーシー鍛冶村(Đa Sỹ)への行き方や体験できることについてご紹介していきます。

・「鍛治」と書かれることもありますが、金属を打つ意味の「かじ」は「鍛冶」です。冶はにすい(冫)で、冶金(やきん)の冶と同じ字です

ダーシー鍛冶村とは|ハノイ近郊にある包丁とハサミの村

ダーシー鍛冶村の工房で炉から取り出された赤熱した鋼材

ダーシー鍛冶村は、ハノイ市キエンフン坊(Phường Kiến Hưng)にあります。旧ハドン区にあたる地区で、ニュエ川のそばの住宅街のなかに鍛冶の工房が密集しています。村と聞いて思い浮かぶような秘境の地ではなく、ハノイの街並みを進んでいたらそこに違和感なくあるエリアといった風景です。

作っているものは、ほぼ包丁(dao)とハサミ(kéo)の2つに絞られます。農具や工具も打ちますが、村の主力はこの2品目です。鍛冶に関わる世帯は700〜800世帯ほどとされ、製品はベトナム国内のほか、ラオス、カンボジア、ヨーロッパ(特にフランス・ドイツ)方面へも出ています。

観光地として整備された場所ではありません。入場ゲートも受付もなく、路地に入ると両側の家からハンマーの音とグラインダーの音が同時に聞こえてくる、という日本の下町のような場所です。

ダーシー鍛冶村への行き方|個人で行く手順

ハノイ旧市街から車で30〜40分の距離で、方法は2つあります。

Grab(配車アプリ)で直行する

いちばん確実なのはGrabで目的の工房まで直接向かう方法です。村の名前だけを入れると路地のどこで降ろされるか分からないので、訪問する工房を事前に決め、その住所を配車アプリに入力しておくと安心です。

帰りもGrabは問題なくつかまるので安心して行ってください。

メトロ2A号線とGrabを組み合わせる

ハノイメトロの2A号線(カットリン〜イエンギア)は全12駅で、カットリン駅から南西のハドン方面へ伸びています。渋滞に左右されないので、市内から出るまでの時間が読めます。

項目 内容
路線 2A号線 カットリン〜イエンギア(全12駅・全線高架)
運行時間 5時30分〜22時
運行間隔 平日は朝6時30分〜9時と夕方16時30分〜19時30分が6分間隔
19時30分〜22時は15分間隔
それ以外の時間帯は10分間隔
土日祝は終日10分間隔
1回券 現金 9,000〜19,000 VND(約54〜114円)
電子決済 8,595〜18,625 VND
距離による
1日券 40,000 VND(約240円・乗り放題)
1週間券 160,000 VND(約960円)

※日本円換算は規定の計算式(VND ÷ 1000 × 6)による概算です。運賃は2025年8月に改定されました。

ダーシーはハドン駅からラケー駅のあたりの東側にあたります。駅で降りてからはGrabかバイクタクシーに乗り継ぐことになるので、荷物が多い日や暑い日はGrabで直行したほうが楽です。

村で見られるもの|鉄が赤くなってから刃になるまで

ダーシー鍛冶村でスプリングハンマーを使って赤熱した鋼を叩く職人

工房で見られるのは、おおむね次の流れです。

  • ガスの炉で鋼材を熱し、オレンジ色になるまで温度を上げる
  • スプリングハンマー(足踏みペダルで動く動力ハンマー)の下に差し込み、叩いて延ばす
  • 形が出たところで焼き入れをする
  • グラインダーで研ぎ上げ、木の柄を付ける

叩く工程は機械が担っていますが、鋼材を炉から出して角度を変えながらハンマーの下へ送るのは人の手です。研ぎの工程では火花が数メートル飛びます。

ダーシー鍛冶村の工房でグラインダーを使って包丁を研ぐ職人と飛び散る火花

材料置き場に積まれているもの

ダーシー鍛冶村の工房の材料置き場に積まれた大型のコイルばね

工房の材料置き場には、大型車のものらしき太いコイルばね(つるまきバネ)が積んであります。ほかに環状の輪材や平板の束も置かれています。バネに使われる鋼は硬く粘りがあり、刃物の材料に向いています。

・包丁=dao(ザオ)/ハサミ=kéo(ケオ)。工房の看板にはこの2語がよく出てきます

レ・ラム工房|OCOP3つ星の鍛冶工房

ダーシー鍛冶村のレ・ラム工房の青い看板と金床のマーク

村には多くの工房があります。今回取材したのは、OCOP3つ星の認証を受けているレ・ラム工房です。目印になるのは、レ・ラム(LÊ LÂM)と書かれた青い看板に金床の絵。

項目 内容
名称 Xưởng rèn gia truyền LÊ LÂM
(Le Lam Heirloom Forge)
場所 ハノイ市キエンフン坊のダーシー村内
事業者名 Hộ kinh doanh Lâm – Ánh
ブランド表示 LÊ LÂM / Made in Đa Sỹ / Chef’s companion

OCOP 3つ星の認証を受けている

レ・ラム工房の陳列ケースに掲げられたOCOP3つ星の認証状

店先の陳列ケースに、ハドン区人民委員会が交付したOCOPの認証状が入っています。レ・ラム工房の包丁セットが2024年に3つ星を取得したもので、地域の産品を行政が星の数で格付けする制度です。星は5段階ありますが、ダーシーの包丁で4つ星以上を取っている工房はなく、3つ星が村では最上位です。

  • 対象製品:Bộ dao Lê Lâm Đa Sỹ(叩き切り・薄切り・骨スキの3本セット)
  • 2024年に3つ星を取得
  • 決定番号 4687/QĐ-UBND(2024年11月12日付)
  • 交付日から36か月間有効

工房には民間団体が出した表彰状も何枚か掛かっていますが、行政の認証はこのOCOPです。買う工房を選ぶときの手がかりとして、この認証を受けているかどうかは分かりやすいです。

・OCOPの認証は工房ごとに取るものなので、同じダーシー村でも持っている工房と持っていない工房があります

ダーシーの包丁を買う|種類と値段の目安

ダーシー鍛冶村のレ・ラム工房の陳列ケースに並ぶ包丁

工房の店先には数十本の包丁がガラスケースに並んでいます。見た目は大きく2種類あります。

  • 黒打ち仕上げ:鍛造したときの黒い皮を帯状に残し、刃の側だけ研ぎ上げたもの。表面に鎚の跡が残る
  • 波状の模様が入った仕上げ:刃の面に波のような模様が出ているもの。同じ形でも見た目の単価が上がる

柄は木製で、刃との境目に真鍮の口金が入ります。刃には「LÊ LÂM / Made in Đa Sỹ / Chef’s companion」の刻印がレーザーで入っています。

ダーシー鍛冶村で作られた包丁の刃に入ったレ・ラムの刻印

値段

レ・ラム工房の包丁は400,000 VNDから3,500,000 VND(約2,400円〜21,000円)まであります。いちばん安いものでも手打ちで、日本の量販店に並ぶ包丁と同じくらいの値段から買えます。ただし、店先に値札は出ていないため、買いたいものを指してその場で確認してください。

・工房は観光客向けの土産物店ではないので、日本語も英語もほとんど通じません。翻訳アプリで「これはいくらですか」を見せるのがいちばん早いです

工房には体験観光の案内もある

ダーシー鍛冶村の工房前に立つ体験観光の案内看板

レ・ラム工房の前には「DU LỊCH TRẢI NGHIỆM(体験観光)」の看板が立っていて、外国人が鍛冶をしている写真が貼ってあります。工房の壁にも、来訪者が刃を研いでいる写真が額に入れて掛けてありました。

ただし、包丁が1本仕上がるまでを自分でやり切れるものではありません。工房の人からも、数時間で1本を仕上げられるものではないと伺いました。あくまで包丁作りの工程を体験させてもらい、持ち帰る包丁は売っているものを買うといったスタイル。今回の取材では、実際にいくつかの工程を体験させてもらいましたが、手に豆はできますし、軽い火傷もあります。腕力や握力に自信がある方でもかなりキツく感じるはずです。

・火の前に立ち、グラインダーの火花が飛ぶ作業をします。サンダルと短パン、化繊の服は避けて、長ズボンとつま先の覆われた靴で行ってください

VIETVOICEの鍛冶体験

この工房で包丁を打つ体験を、VietVoiceが手配しています。通訳の現地スタッフが同行します。

ダーシー鍛冶村の鍛冶体験を見る →

買った包丁を日本へ持ち帰る

包丁は刃物なので、機内持ち込みはできません。受託手荷物(預け入れの荷物)に入れます。

  • 手荷物として機内に持ち込むと保安検査で没収される
  • スーツケースを預けない旅程(機内持ち込みだけのLCC利用など)だと持ち帰れないので、買う前に確認しておく
  • 刃をむき出しで入れると他の荷物やスーツケースを傷める。工房で包んでもらうか、厚紙とテープで刃を覆う
・日本に着いてからも、包丁を正当な理由なく持ち歩くと法に触れます。買ってきたものは荷物に入れたまま家まで運び、台所で使ってください

ダーシー鍛冶村の歴史

ダーシー鍛冶村の工房の内部と作業する職人

ダーシーで鍛冶が始まった時期は伝承の域を出ませんが、村が鍛冶の村として成立したのは陳朝期(13世紀初頭)とされています。タインホアから来たグエン・トゥアット(Nguyễn Thuật)とグエン・トゥアン(Nguyễn Thuần)の2人が村人に技術を伝えたと伝えられ、いまも2人は職業の祖として祀られています。

村の名前も変わってきました。もとはSẽ、次にHuyền Khêと呼ばれ、のちに科挙の合格者を多く出したことからĐa Sỹ(多士)になったとされています。村からは11人の進士が出ており、そのうち2人は状元、1人は両国状元だったと伝えられています。

戦時には軍の武器を供給する村になり、戦後は農具と台所用品に戻りました。この切り替えが、いまの包丁とハサミの村につながっています。

・祖師の命日にあたる旧暦3月27日と8月25日には、村で祖師祭が行われます

行くときに知っておきたいこと

  • 観光地ではない:土産物屋も食堂も並んでいません。見るのは工房と路地です
  • 暑さ:炉のそばは外気温より明らかに暑いです。夏場は午前中の早い時間が向いています
  • 路地が狭い:工房の前は車1台が通れるかどうかの幅で、バイクの往来があります
  • 写真:作業中の職人を撮るときは一声かけましょう。火花と赤熱した鋼材に近づきすぎないように
  • 滞在時間:見学と買い物だけなら1時間ほど。体験をさせてもらうならもっとかかります

ダーシー鍛冶村に関するよくある質問(FAQ)

入場料はかかりますか

村に入るのに料金はかかりません。ゲートも受付もなく、公道から工房を見る形になります。工房の中を見せてもらう場合や体験に参加する場合は、その工房との話になります。

予約なしで行っても見学できますか

路地から作業の様子を見ることはできます。ただし工房は稼働している仕事場なので、中に入って見せてもらいたい場合や体験をしたい場合は、事前に連絡を入れておいたほうがよいです。

日本語や英語は通じますか

工房では基本的に通じません。翻訳アプリを用意して行くのがおすすめです。

バッチャン村と同じ日に回れますか

ダーシーはハノイの南西、バッチャン村は南東で、市内を挟んで反対側にあります。移動に時間がかかるので、同じ日に詰め込むより別の日に分けたほうが余裕があります。

子ども連れでも行けますか

路地を歩いて工房を見るだけなら問題ありません。ただし炉の火とグラインダーの火花があるため、工房の敷地内では手をつないでおきましょう。体験に参加させる場合は、年齢の条件を工房に確認してください。

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ライター

日本での生活経験あり。リンランを生活圏に、文化背景の翻訳と取材サポートを担当。

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